《解説》なぜ北朝鮮だけで水害被害が起こるのか 石丸次郎
洪水の原因は無分別な木の伐採
朝中国境地帯に行って豆満江、鴨緑江越しに北朝鮮を見た人は、一様に「ここまで山に木がないのか」と驚きの声を上げる。
勾配三〇度をはるかに超すような急な斜面にも、バリカンで刈り上げたように見事に木がない。
斜面には代わりに畑が耕されており、それは遠くから見ると、山に四角いお札がペタペタ張られているように見える。
一方、川を挟んだ中国側は、近年植林が進んだこともあって、山には木がしっかり根を下ろし枝を張っている。
同じ川の両岸の山で実に対照的な光景が広がっているのだ。
二〇〇七年八月七日から降った集中豪雨によって、北朝鮮中南部の広い地域で洪水が発生した。
「死者・行方不明者六〇〇余人、負傷者数一〇〇〇人、二四万余世帯の住宅が全・半壊、浸水して一〇余万人が家を失い、九〇余万人が被害を受けた」と北朝鮮メディアはその被害を伝えた(〇七年八・二九「朝鮮新報」)。
本誌のリポートにあるとおり、北朝鮮では二〇〇六年七月にも集中豪雨があって洪水が発生し、山崩れや鉄砲水で死者を出している。
しかし、大雨は北朝鮮にだけ降るわけではない。北朝鮮を地理的に挟んでいる韓国と中国東北部でも、集中豪雨被害は発生しているものの、この十数年、死者が百人を超えるような大きな水害は起こっていない。
それでは、なぜ北朝鮮にだけ洪水被害が頻発するのか。それは、冒頭に述べた山の木の無分別な伐採に最大の原因があるのである。
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