「電気は、ちらっとだけ来るんだから……」
「電気は、ちらっとだけ来るんだから……ですって?」
不思議なことに、世帯主班長には主人の言葉の意味がすぐに分かった。

電気が来るのは一瞬だから、電気代も一瞬だけ見せてやるんだと……。
世帯主班長があっけにとられていると、人民班長は「帰ろう、帰ろう! もう、恥ずかしくて見てられないわ」と言いながら、一人でさっさと出て行ってしまった。

世帯主班長は、来たときの元気はどこへやら、しょんぼりして家に帰っていった。
自信満々に電気代を払わせて見せると言ったものの、とても受け取れそうにはなかった。
電気代をちらっとだけ見せられると、何も言えなくなってしまったのだ。

だが不思議なことに、いつもこんな調子だという老主人のことを、彼は腹立たしいとは思わなかった。
ちらっとしか電気を送らない政府が悪いのだと、老主人の肩を持ちたくなる気分なのだ。
「俺は反動なのかなあ」(注2)

世帯主班長は妙な気持で自問したのであった。
資料提供 記者シン・ドソク(申導石)
二〇〇六年三月
(整理 リュウ・ギョンウォン)
注1 人民班は昔の日本の隣組のような組織で、班長には女性が就くが、世帯主=夫の代表も決められ世帯主班長とばれる。
注2 政府の方針に賛成しない者は、反動という常套句で非難される。

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