細身のパンツに厚底サンダルを履いて、体の線を強調した格好の一人の少女が、市内に向う通りで、女性同盟の糾察隊(注1)に引っかかった。
「ピーッ!」周囲の人がびっくりして逃げ出しかねないほどの大きな笛の音が鳴り、少女は糾察隊に指差されて、その場に立ちすくんでしまった。
人通りの多い所で恥をかかされて腹が立った少女は、糾察隊のところへつかつかと近づくと、大声でまくし立てた。
「なんで私を取り締まるんですか!」
「あら、なんでだって? 自分の服装を見て分からないの?」
「分かりませんね」
「どうしてスリッパなんて履いて表を歩いてるの? みっともない」
「これのどこがみっともないんですか?」
「みっともないわよ。幹部たちが見たら何て言うか」
「これはスリッパじゃありませんよ」
「スリッパじゃないなら何なの?」
「いま流行のサンダルですよ」
「これのどこがサンダルなの? かかともないじゃないの」
「ふう、まったく……。これは、新式のサンダルなんです。おばさん、娘いないの? 娘に聞いてみなさいよ。これは新しく流行してるサンダルなの」
糾察隊員の中年女性は、少女の予想外の反応に慌てたようだった。道行く人々が面白そうだとばかりに集まってきた。糾察隊員はさらに大きな声で言った。
「とにかくダメです! それに、そのズボンは何なの?」
自分のズボンをちらっと見た少女はこともなげに答えた。
「これ、『ジーンズチョイ』(ジーパンのこと)じゃありませんけど」(注2)
「『ジーンズチョイ』だろうがなかろうが、そんなに体にぴったりしたズボンはダメでしょう? 社会主義の生活様式にはふさわしくない服装です」
少女はプイと顔をそらして、周囲をあちこち見回すと、声を上げた。
「あの女の人はどうして取り締まらないんです? ストレートのズボンを履いてますよ」
「ストレートは取り締まりません」
「去年は取り締まってたじゃないですか」
「もう流行ってないからね」
「それじゃあ、取り締まりは流行に合わせてやってるってわけ!?」
周囲の人々から「ワハハハ!」と笑いが起こった。
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