「この子は賢いな」
「まったくだ。取り締まりは流行に合わせてやってるんだから」
「そのズボンも流行りが過ぎてから着ればいいさ」
人の口に戸は立てられないと言うが、みなが騒ぎ出したものだからその糾察隊員は何も言えなくなってしまった。しばらくしてから、これではいけないと思ったのか、彼女は少し穏やかな口調で少女に言った。
「あなた、どうしてそんなに強情をはるの? どうしてもそんなズボンを履きたいんなら、これからは裏通りを歩きなさい」
その言葉を「もう帰れ」という意味だと取った少女は、胸を張って颯爽と裏通りに消えて行った。集まっていた人々もたちまち興が冷め、思い思いの方向へと散らばって行った。
だが、人々の頭の中には「どうして流行に合わせて取り締まるんだ? どうして流行が過ぎると取り締まらなくなるんだ?」という疑問が、しばらくの間、旋風のようにぐるぐると回っていた。
資料提供 ペク・ヒャン(白香)
二〇〇六年八月
(整理 チェ・ジニ)
注1 服装や髪型、金日成バッジをつけているかなど、朝鮮式風紀を守っているかチェックする。女性同盟、青年同盟、学生同盟などの社会団体の任務のひとつ。
注2 朝鮮では、ジーパンは資本主義文化の象徴として禁止されている。
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