コン 盗聴もするしね。
女性1 ふん。どうして盗聴なんかするか知ってる?
中国に親戚がいて訪問すると、本人も知らない間に買収されることがあるんだね。「おやおや、朝鮮から来たんですか?」と、安企部は裏で全部調べてて、くっついて回ってるらしいよ。で、こいつは平壌(ピョンヤン)から来たと分かったら、ピタッとくっつくんだってさ。
「平壌のどこから来たの?」とか言って。それで「それはそれは。私も親戚がいるんですけど、ずいぶん会ってませんで……」とか言って、いろいろ身の上話をしてくる。そうすると、(最初は)世間話だから「そうですか? ご親戚に会えるといいですね」なんて。
ところが、別れ際に、あいさつ代わりに(金を出して)、これ使ってくださいとか何とか言うわけよ。そうすると、何も知らないからありがとうとか言って受け取るじゃない?
で、最後にひとこと言うわけだ。「うちの親戚は、南浦(ナムポ)市のどこどこに住んでるんですけど、南にいるおじは元気だって伝えてもらえませんか」とか言う。その言葉がその筋の組織を結ぶ合言葉なんだってね。だけど、その人はそんなこと知らないじゃないの?
中国人のこと華僑って言うように、朝鮮とつながってる人が中国にいて、「朝僑」って言うらしい。その人たちは中国に大きな組織を持ってて、昔はなかったけど、今は保衛部の組織もあるんだってさ。その組織を通して、中国で何をしてたのか、全部報告が送られてくるんだって。
コン 本当に?
女性1 本当だよ。で、国境の税関で待ち構えてて、ぜんぶ捕まえちゃうんだってよ。そういうことがよくあったのよ。九〇年代は中国に行っても、誰に会ったのか、どこに行ったのか、全部わかってた。保衛部に旅券を返納に行くと、全部知ってる。中国のあっちこっちに朝僑のスパイを潜ませてたんだから。今は、それもバレちゃってるけどね。まったく、あきれるわ。
コン ひどい連中だなあ、朝僑ってのは。
女性1 それ、みんな安企部なのよ、安企部。
コン え? 朝僑なのに、どうして安企部なんですか?
女性1 安企部がその人たちを利用するんだってよ。気をつけないとね。金ばらまいてね。全部金なのよ、金しだい!
昔、九〇年代のことだけど、ある人がポケットに名刺を入れて中国から戻ってきたんだって。それで、何か調べることがあるからって、呼びだされたらしい。
コン 税関で?
女性2 名刺は一〇〇%取り上げられるますからね。
女性1 みんな向こうで尻尾をつかまれてるのよ。今はもうそんなことはないけれどね。中国人も今は南朝鮮に自由に行ける。九〇年代までは、中国にいる親戚が南朝鮮に行くと、朝鮮では中国に行く旅券を出してくれなかったじゃないの。
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