【両岸直航便の開通で微妙な立場に追い込まれた金門島。いままで中台交通の中継地として利用されていた。対岸に大陸が見えている】(撮影:柳本通彦)
[柳本通彦] 台湾海峡天氣晴朗なれど No63~「遺憾」
この水曜日、台湾の軍艦が日本に向けて出動するはずだった。国防大臣が乗り込む、いや馬英九総統に乗ってもらおう、という勇ましい話も出ていた。
しかし台湾政府は、あっさりと「敵前逃亡」してしまったのである。
この間、日本の国旗を焼いたり、交流協会( 大使館 )にタマゴを投げたり、日本製のテレビをバットでたたいたり、そごうデパートから出てきた客を追い掛け回したり、日本人記者を包囲して侮辱したり、さまざまな狂騒が吹き荒れ、日本の児童が殴打されたという噂も流れた。
冷静な事実確認も国際常識も欠いた騒動であったにもかかわらず、日本政府は、沈没した船長宅を訪れて謝罪したり、海上保安庁の代表者が謝罪会見を開いたり、日本大使が台湾立法院長を訪問したりして、ただひたすら低姿勢で穏便な解決をはかる一方、「台湾内で反日の気運がこれまでになく高まっており、台湾で生活する日本人の皆様の安全を脅かす可能性があります」として在台日本人に注意を喚起する「お知らせ」を発したりした。
そして、台湾側はある瞬間を境に、一気に一切の発言と行動を封じてしまったのである。
日本側の謝罪の表現は、「遺憾」――。これでこっそり押し切ってしまおうという腹だったんだろうけど、漢字圏の台湾人にはなかなかごまかしがきかない。
テレビ局の友人からも問合せがあった。日本語の「遺憾」はどういう意味?
海上保安庁も大使館職員も頭をさげている。これは事実上謝罪なんだと答えるしかない。
なんとなく、うやむやのうちに、日本が謝罪した、賠償するんだという形になって、短い「戦争」は終結したのである。
日本の報道は消極的。NHKはまったくといっていいほど報道しない。台湾にとっては、恥を世界に晒さなくてまことに幸運だったかもしれない( 報道されていれば観光客は激減したであろう )。
しかし、日本にとってこれでいいのだろうか。国民や専門家の検証を受けることなく、領海の問題をカネで解決する。国家の代表が簡単に頭を下げて謝罪する。相手は、台湾の国内法にすら違反している犯罪者。何の目的で遊漁船が国境を越えたのか、基本的な事実関係すら闇に封じて事態の収拾がはかられた。
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