※ 北朝鮮では、誰が何をどういう意図で提議したかに関係なく、金正日将軍の「方針」(つまりOKのサイン)さえ取りつければ、それが至上命令になるという「唯一指導体制」というものが存在する。提議書が下から金正日に上申され、金正日がサインをすれば、それが「方針」となる。「方針」が間違っていても誰も責任を負わない。提議書を上申した者は金正日がサインしたということで責任を免れ、金正日は「首領無謬の原則」によりその責任を免れる。※

絶対命令である将軍様の「方針」の下で、この事件の「解明」は推進されることになった。朝鮮労働党中央委員会の大物までもが、罠にかけられたが、その勢いを止める力はもう誰にもなかった。農業担当の労働党中央秘書をしていた徐寛熙(ソ・グワンヒ)(注3)や皮昌麟(ピ・チャンリン)(注4)、労働党中央委員会本部の党責任秘書であったドン・ピルムまでもが巻き込まれた。さらに、前 農業担当副首相で、数年前に死亡していた金萬金(キム・マングム)(注5)も「住民登録の記録から、米国に雇われたスパイであったと判明した」とされた。

私が「18号管理所」に入所して一、二年が過ぎた頃だったが、「龍城事件」に連座したとされる人たちが続々と送り込まれてきた。
この件に関与した人間から直接聞いた話によると、とにかく凄まじい拷問をして無理やり自白させたということだ。また、容疑者を拷問部屋に連れて行き、拷問で半殺しの目に遭っている人の姿を見せて、次のように脅したという。
「よく見ておけ」

「お前も裏切り者として人知れず死にたくなければ自白しろ」
「ここに署名しろ。署名しなければお前もあんなふうにして死ぬんだぞ」
文字通り、過去の「反民生団闘争」のときとまったく同じやり口である。これが龍城事件の真相であり、内幕である。この証言を私にしてくれたのは、他でもない、その尋問を担当した安全員(警察官)たちだった。まさにその当事者たちが、今度は逆に「18号管理所」に送りこまれてきたのだ。そして、自分の口で全てを告白したのである。
次のページへ ...

★新着記事