つまり、人民を守る法律だけは徹底されていたんです。本当に人民を先生だと奉っていたんです。人民に何を言われるか分からないと思うと、幹部たちも恐ろしくて不正なんてできなかったんですよ。人民の目を意識しなければいけなかったんです。なのに、その偉大なる「人民」の文字が省略されるようになってしまいました。
シム それはいつごろからですか？
秘書 正確にいうと、金正日同志が登場してきてから「人民」という文字がすっかりなくなってしまったんですよ。「先軍政治」しかない世の中になってしまったんですから。
シム 人民のための、まともな「先軍政治」をやればよかったのに......。
秘書 駄目ですよ！ 軍隊に何がわかるもんですか。軍隊というのは根性はあっても、社会全体の舵取りはできませんよ。実際、軍自体もそんなことしたいとは思ってないんですよ。
つまり、「先軍」というのは間違ってるんですよ。首領様もそんなことはされなかった。だからこそ、（朝鮮）戦争後の困難の中で復旧建設をして、立ち直ってきたんです。今の問題は、とにかく立ち上がる力もなくなってしまったということですよ。
（おわり）
資料提供 シム・ウィチョン（沈義川）
二〇〇七年一一月
（整理 チェ・ジニ）
注１ 三八度線を挟み、韓国に一番近いという事で、黄海道は他の地域に比べて統制が厳しく、地域と住民の表現が相対的に厳しく抑制されている。こういったことから黄海道出身者を反応が鈍くぼんやりしていると揶揄する言葉があるほどだが、市場の発達には既にそういった地域差はない。北朝鮮の人々が「黄海道の人達ですら変化してきている」と言うのは、意識の変化が全国に及んでいることを意味する。
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