北部モスルはいま (2) 写真・文 玉本英子
住民たちの訴え

<img alt=【モスルイラク軍の一般兵士の多くは南部出身のシーア派とクルド人。上官はスンニ派アラブ人が多い】

治安が悪化したモスルでは、身代金目的の誘拐が急増した。会社経営者や商店主らが次々に街を離れたため、市民に失業者が急増した。
買い物に来ていた女性客のひとりが窮状を訴える。
「肉、野菜、果物の値段は去年の2倍。夫も失業中でこの先どう生きていけばいいの…」。
それを聞いたサダム・ホガー兵士(27)が「彼女の夫は危険だ」と私にささやいた。
武装勢力は、こうした失業者を巧みに利用し、仲間に加えているからだ。サダム兵士は言う。「お金のために武装勢力に協力する者は多い。失業問題を解決することも必要だ」。

翌日、最も治安が悪い南東部のスナア地区に向かった。車の修理会社が立ち並ぶスナア(修理)地区は、武装勢力の爆弾製造の秘密工場がいくつも置かれてきた。
街の一角は、空爆で廃墟となっていた。武装勢力の拠点となっていた地区に、昨年秋から、米軍は大規模な空爆を加えた。建物は崩れ落ち、鉄骨やコンクリートがむき出しだ。

「昨年2月に始まった掃討作戦でバグダッドを追われたスンニ派武装勢力が、モスルに集結してきた」第二師団リヤド・リヤブ・リヤス(48)司令官は言う。フセイン政権時代、軍部隊を指揮していた彼は、故郷でもあるモスルが、殺戮の町になってしまった現実を、悲しみをもって見つめてきた。
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