揺れるカシミール 廣瀬和司の緊急現場報告/2008/08/24
2年半ぶりのカシミールを、空から眺めるのは格別だった。田園や森林が織り成す緑の絨毯が一面に広がっているのだ。後席のアメリカ人も「アメージング!」と声をあげる。カシミールの美しさは変わらず私を歓迎してくれたようだった。
しかし、そんな暢気な気分は空港を出るとすぐぶち壊された。タクシードライバーが「気をつけてくれよ、テンションがあがっているから。」という。もともと、今日はゼネストだったのは知っていたので、そのせいなのかと思うと、朝から外出禁止令が施行されたのだという。
人びとが外に出るのを防ぐために、7~8人の小隊規模の準軍隊の兵士が200mぐらいおきに配置されている。通り過ぎる私の乗る車への兵士たちの視線は、獲物を狙う獣のように鋭い。私はこれまで何度もカシミールを訪れているが、こんなあからさまなのは初めてだ。
兵士たちは車を止めるたびに、なぜ外に出ているのか、どこから、どこに行くのか、乗っている客は誰なのか、運転手のラティーフさんに矢継ぎ早に質問をする。最初から外出禁止令になのに車にのっているほうが悪いと言わんばかりで、敵意をむき出しにしてくる。
幸い彼は通行許可証を警察に作ってもらっていたので、通ることができる。彼はホテルのオーナーでもあり、自分の客を空港まで送るのに必要だったのだ。
途中、病気の子供がいるので、病院まで乗せて欲しいと頼まれた。六歳ぐらいの子供は母親に背負われてぐったりしている。車があっても許可証をないと通れないため、許可証がありそうな、動いている車を捕まえようとしていたのだ。しかし、すぐ後ろの車がその任を請け負ってくれた。
3箇所目のチェックポストでのことだった。許可証を見せろ、というところまでは普通だった。その場所の将校がラティーフさんに降りてくるように指示すると、いきなり彼を棒で打ち据えてきたのだ。
周りにも兵士がいるので彼は抵抗できず、ただ打ち据えられるだけだ。許可証を持っていても、外に出ているのが気に入らないのだ。私が「止めろ、止めろ」と叫ぶと、他の兵士がお前も殴られたいのか、と言わんばかりに睨んできた。
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