メディアの中の「固定イメージ」
このような「北朝鮮モデル」は、メディアの中に現れることも少なくない。
「北朝鮮の国家戦略はすべて金総書記個人の手で練られる。(中略)対抗勢力はおろか不満分子が見つからないほど政権は安定している」(2007年10月9日毎日新聞、西岡省二記者)

「(金正日政権は)北朝鮮国民の大多数に支持されていると筆者は考える」(2007年10月12日週刊金曜日、佐藤優氏)
この15年間に朝中国境に50回以上通い、北朝鮮難民・越境者600人余りを取材してきた経験から断言できるが、北朝鮮国民のほとんどは不満だらけの中で暮らしている。

中国のように改革開放に進まない今の体制に失望しており、政治が一刻も早く変わって欲しいと願っている。
ただ、北朝鮮国内でこのような考えや意見を表明したり、あるいは外部世界に伝えたりするチャンスがなく、外にいる我々がなかなか知りえなかっただけである。

名前をあげたお二人のことを、北朝鮮がよくわかっていないと批判したいのではない。
毎日新聞の西岡記者は朝鮮語も解する北京総局の敏腕記者として、ライバル紙から一目おかれているし、佐藤氏は朝鮮半島こそ専門外だが、外交官としてソ連・ロシアと長く深くかかわった情報分析家である。
つまり、彼らのようなプロをしても、北朝鮮に対する固定イメージを払拭し、北朝鮮の変化を追尾して実像を捉えることは、なかなか簡単ではないのだなと思うのだ。

それだけ私たちには北朝鮮内部の情報が不足しているのである。

変化が激しい北朝鮮の現実
国家から与えられたはずの住宅が「不動産業者」の仲介で売買される。
主婦や学生がパートやアルバイトとして個人に雇用される。

清津市では住民の3分の1が三食とも白米を食べ、子供を塾に通わせ、家庭教師を雇う家庭も珍しくない。
都市部の女子学生は厚底サンダルを履き、韓流ドラマを見て韓国訛りで話すのが流行っている――。

すべて今、北朝鮮の中で起こっている、珍しくもなんともない現象だ。まるで、既に北朝鮮が改革開放されてしまっているかのようだ。だがこのような現象は、政府や労働党の政策の結果生まれたわけではないし、ましてや「将軍様」が指導してそうなったわけでもない。

すべては、下から始まった市場経済の増殖・拡大によって、この10年ほどの間に自然発生的に起こったことなのである。
北朝鮮の社会がどれほどの変化を起こしているのか、具体例を挙げて報告してみたい。
なお、以下の論考の中で言及する北朝鮮内部の事情は、北朝鮮人の取材パートナーである、「リムジンガン」の記者たちによる証言と、彼/彼女たちが撮影してきた映像に拠るものであることをお断りしておく。(続く)

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