従前より中央党本部党責任秘書をしていて、現在は組織指導部第一副部長も兼任している李済剛(リ・ジェガン)(注2)がまさにそういう人間だ。この男が組織部の行政課長を「18号管理所」に放り込んだ張本人である。こういう奴らが、自己保身のために消し去るべき人間を「管理所」へと送り込み、社会から抹殺しているのだ。
今でも行政課長の罪を解除すべしという文書が下から上がってくると、この男がすぐに処分してしまうと、巷では言われている。
李済剛にとって、自分の秘密を知りつくしている行政課長が戻って来るということは、自分の終わりを意味する。
枕を高くして寝るためには行政課長の首をはね、完全に息の根を止めてしまうしかないのだが、そこまではできずにいるのだ。自分が生きている間だけは何事もなく過ごせるよう、行政課長を家族もろとも「管理所」へぶち込むことにとりあえずは成功し、武装軍人たちを警備に立てて彼らを厳重に見張らせている。
しかし李済剛は、いつか誰かが暴露しやしないかと常に不安に怯えているはずである。
党と国家は、人民に対し「自衛的国防力を備えなければいけない。自衛的国防力が強ければ外国勢力の圧力に対抗して自力で生き残っていける」と言い続けてきた。しかしわれわれにとって一番怖いのは外国勢力の圧力などではない。どこかの国が我が国を侵略しに来るという話は、大衆向けの決まり文句に過ぎない。
「管理所」では連日「移住民」や「解除民」に対して人間以下の扱いをし、人びとを恐怖に震えあがらせている。こんな生活を実際に経験したわれわれにとって、「自力で」生き残ると言いながら、その実、自国民を生きた心地がしないほど苦しめていることのほうが「外国勢力の圧力」などよりよほど恐ろしい。
しかしながら、当の「管理所」に入れられている者たちは、外の世界をよく知らず、「管理所」のひどさが客観化できない。
「世界の他の国々にも我が国と同様、恐ろしい『管理所』があるに違いない。他の国でも下手をすると『管理所』へ送り込まれるのだろう。こういう場所で『革命化』を施され、解除されればまた社会に復帰する。外国だって同じなのだろうさ」というような具合に、現在「18号管理所」で暮らしている人々は、おおむね考えているのだ。
「方針」対象の「革命化生」たち
「18号管理所」には、家族を伴わず単身で収容された「移住民」たちもいる。彼らの住む特別住宅を「革命化合宿」と呼び、そこには常に九〇名ほどの人々が暮らしていた。
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