権力維持にとらわれて勢力争いばかりやっている上層部は、こんな現実にも満足するしかないのだ。
問い正したり、浪費を批判しようとする人々に対しては、「言うことだけは立派だが実践が少しも伴わない『いちゃもんつけ』だ」というレッテルを貼って、政治闘争や革命化(注2)の対象にするのが権力者たちのやり方なのだ。
リュウ・ギョンウォン:今では権力者たちは、労働者や農民など生産者への関心がなくなってしまったように思える。
ケ:結局、無権利の労働者たちの報酬ばかりを切るようになっている。彼らが労働しなければ経済がどうやって回復するだろう? 金があるからといって経済は回復するものではない。
こんなあり様の中で、人民みんなの切実な望みは何か?
労働に対するきちんとした報酬が支払われる、道徳的にまともな経済システムのもとで働きたいということなのだ。
先軍政治を行う軍部に対してはもちろん、党にも国家にも、人民はそれを望むことができなくなったため、今我が国が一体どんな状態に陥ってしまったか?
今では、人民が不平を口に出すことを止められないほどになってしまっているが、何をどのようにすれば道を正せるのか、権力者にはその方向が分からない有様だ。
将軍様まで「もう言葉の反動はない」(注3)と言うほどの現状だが、考えやアイディアが集まるしくみ、合意を形成する機構がこの国には本当にない。
現執権層は、全く人民に依拠しておらず、人民のことを考えようともしない。人民たちは、初歩的な論議をしようと思ってもその方法を互いに知らない。
今になって、われわれの社会に深刻な欠陥が現われ始めている。あらゆる場面で、朝鮮の「主体確立」を唱えることよって、私たちは、世界との繋がりを失い、環境を失った(主体思想は、人間が世界の主として自然を支配できると説いた)。資源や市場、社会を失った。
今日人民が経験しているこの苦労は、私たちが、変化する世界をあまりにも知らないのに、恥ずかしくも「思想大国、政治大国、軍事強国の人民」になってしまったことに対する結果なのだ。
(つづく)
注1 朝鮮におけるすべての重要な権力の執行がそうであるように、各種司法検閲も下部権力単位で出した提議書に金正日の批准がなければ執行できないようになっている。
朝鮮では、個人や集団が犯した不法行為に対して法律に則って自動的に調査検閲が発生するのではないのだ。
注2 革命化 朝鮮労働党の組織規律違反者に対する懲罰で、いわゆる政治犯収容所である「管理所」に家族もろとも送り込むが、法的根拠はなく権力者が恣意的に運用しているのが実態である。
注3:朝鮮は一九六七年に首領独裁社会に移行してから、新聞や放送を含めて言論や学問、文壇で体制に対する批判を一切できないようにした。
この施策の効果をすぐに獲得しようと、国家安全保衛部は、発言上問題がある人に「言葉の反動」というレッテルを貼って連行したり、家族ごと統制区域に追放したりし始めた。
初期には移住者である南出身者、海外帰国者、幹部たちが主にターゲットとされた。
九〇年代に入って配給が停止になると、社会や人民全体に不満があふれ、「言葉の反動」を密告するシステムが有名無実化した。こうして以前のように「言葉の反動」を逮捕する事はめっきり少なくなった。
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