支配人は資材がなければ工場を稼働させることができない。資材を購入するためには現金が必要で、自分の企業所の製品(生産品)を(国家に秘密で)横領して売らなければならない。そのためには「公正な法」の捻じ曲げてしまわなければならない。
党や司法は、この支配人の生産品横領を黙認・許容してやる代わりに(利益を)山分けしたりワイロを受け取ったりする。
下の従業員たちも窃盗なしでは生きられない。党や司法組職が「経営犯罪」をかばい、結局、それらの社会的信用は失われてしまった。
典型的な「経営による横領」方式を見てみよう。
ある企業所で燃料油一〇トンを国家から受け取ったとすると、それを一人占めしようとするような愚鈍な企業幹部は一人もいない(そんなことをするとすぐにばれてしまう)。適当な口実と理由を付け、名目を作り上げて、党や司法機関と結託して、通常三分の一程度をかすめ取るのだ。
組織が連帯して横領するので、上部である国家はこんなからくりを絶対にのぞき見ることができない。実態をいいようにごまかした虚偽報告を受けるだけだ。
横領システムとしての食糧専売制
リュウ・ギョンウォン:二〇〇五年一〇月にあった食糧専売制もその代表的例だと言えるだろうか。
ケ:それでは、その食糧専売制を見てみよう。
国家は食糧配給制が崩壊して意味を失うと、二〇〇五年一〇月に食糧配給制の代わりの新しい食糧専売制(注1)を実施した。
この食糧専売制導入という「経済措置」は、既得利権を持つ特権層が、その政治的目的を隠ぺいするために掲げた看板だ。この措置によって、国の食糧流通、とりわけ市場での流通が抑制されてしまった。
気をつけなければならないのは、食糧専売制導入の目的が、ジャンマダン(市場)への攻撃ということ自体に向けられていたわけではなかったという点だ。ジャンマダンは許容するが、ジャンマダンにおける主要商品であり、大量の流通物資である食糧については、その流通の利権を腐敗権力と特権層で独占してしまおうという企みだったのだ。
食糧配給途絶のせいで大量の餓死者が発生した「苦難の行軍」期には、人民からすっかり顔をそむけて配給制維持に力を入れなかった国家は、ジャンマダンが活性化した今日、腐敗特権層の要求には、喜んで応じるのである。
食糧専売制は、既得権を持つ特権層が国家の力を利用して、食糧流通の占有率を強権的に高めようとした行為で、本当に幼稚な発想だった。貧しい国家がジャンマダンに及ぼす影響がとても弱いことを、腐敗特権層はチャンスだとみなしたのだ。
次のページへ ...