23歳青年が考える祖国の発展の条件 1
朝鮮北部で暮らすキム・ギファン(仮名、二〇〇八年七月現在二三歳)は、中学生だった一八歳の時に金属の売買をしていたが、これが違法行為として保安署に逮捕され、懲役三年の刑を受けた。その取調べの際に殴打などの拷問を受けたが、生まれつき体が丈夫だったおかげで死だけは免れたものの、身体が不自由になってしまった。
彼は教化所(刑務所にあたる)で多くを学び、自ら「革命大学」(注1)を卒業したと自負している。
怪我の治療のため鴨緑江を密かに渡って中国に来ていた彼に、二〇〇八年二月本誌編集部員リム・グノがインタビューを申し入れたところ、快く応じてくれた。以下はその内容を整理したものである。
将軍様の政治に対する不信感
リム・グノ 将軍様と聞いて何が思い浮かびますか?
キム・ギファン (将軍様については)口には出さないが、今では、もうみんな知っている。志を持った人たちは胸の内ではちゃんと考えている。
将軍様はこれまでにも経済部門への視察をさんざんしてきたけれど、いくらやったって何の役にも立たない。先軍政治なんて、ぶっちゃけた話、この国を私物化しようとしてるだけだ、と思っている。
しかし、金日成首領様はそうではなかった。人民たちも心から「人民の首領」と慕っていたし、私は今でも首領様のことを思うだけで涙が出る。
しかし、(首領様の)後継者として将軍様が代を受け継いでからは、人民たちが安心して暮らせるようになるどころか、生活は苦しくなる一方なんだから、まったくひどい話だ。
もっとも、ひょっとしたら将軍様の意に反して、下にいる幹部達がちゃんとしないせいなのかもしれないが......。たしかに、幹部たちにもいろんな問題があるのだと思う。上部からの間違った指示が下に伝わることもあるだろうし。上で出された正しい指示が下に間違って伝わることも多いのだろう。
だから、トップの人間なら、そのような下の実態について、正確に把握し対処すればいいものを、将軍様にはそれができないんだから情けない。
上からの指導検閲の人間が降りてきたとしても、そいつらにとっては、民衆の意見なんてなんの値打もないんだ。下にいる幹部らに都合のいい内容の報告ばかりが上がるんだから、人民の生活実態を将軍様が知るなんてできっこない。
仮にそういう報告が将軍様のところまで上がったとしても、先に目を通す者が将軍様に報告しても差し障りのないものだけを選び、その他は事前に黙殺してしまうんだそうだ。
次のページへ ...