我が国の経済動向 13
「人は飢えとは妥協できない」
ケ・ミョンビン:さて、その食糧専売制の結果はどうだったのか?
それは食糧供給体制を、決して以前の「配給制」に戻そうとするものではなかった、ということははっきりしている。糧政(注1)部門の食糧在庫は増加しなかったし、軍人たちに対する食糧供給もさっぱり改善されなかった。一般人民と下層軍人の食糧状況は、より悪化してしまった。
自分の足を自分の斧で切るというが、食糧専売制によって、権力の方も、大衆に寄生していた食糧統制担当者たちの不正収益までなくしてしまう自己矛盾をもたらし、むしろ彼らの中から反発が出てきている。
個人による食糧の大量移動(個人の市場活動による流通)は、まだ復旧はしてないが、すでにジャンマダンなどではこっそりと食糧売買することは黙認され始めている。専売制という権力によって作られた病が、ジャンマダンの免疫力で自然治癒されているというわけだ。
配給制を樹立運営した金日成も最後には言っていた。「人は飢えとは妥協できない」と。配給を途絶させてしまい、経済も乱れてしまった今、国民がジャンマダンを立てて自力で食糧を解決しようとしているのに、それさえ統制しようとするのは、本当に愚かなことだと言わざるを得ない。
石丸次郎:それも無知に一定の原因があると思うか?
ケ:もちろん食糧専売制という形態を採って、配給制を生き返らせてやろうという国家の欲望は分からないでもない。全国民を安易に動員することができた統制型経済しか運営した経験がないので、過去に対する未練が残っているということもあるだろう。
しかし経済が生き物だということを、この国の権力者たちはあまりにも分かっていない。混乱が続いてもしばらく息をひそめていれば、政治が号令をかけて経済は元に戻るとでも、思っているようだ。
ジャンマダンに起こっている今日の経済の現実を見て、私たちがしっかりと分かっておかなければならないのは、荒地の上に発生したこのジャンマダン経済は、もはや朝鮮労働党や朝鮮人民軍が過去に作って掌握してきた経済システムではないということ。朝鮮は今や質的に完全に新しい経済システムになってしまっているのだ。
朝鮮の最近の国家糧政政策はどうなのか? 九〇年代に糧政自体が、将軍様が先頭に立って導いた〝苦難の行軍〞によって、麻痺、配給途絶に陥った。何ヶ月もの間配給を受けられない飢えた労働者たちは、工場に出勤することができなくなった。戦争でもないのに工場は破壊された。二度と元どおりに立ち上がれないないほど、ひどい盗難、略奪に遭った。
この期間、権力者たちの横領で、国家の倉庫の配給のための米はすっかり底をついた。その米は、目に見えないたくさんの人々の手を経て、最後にジャンマダンへ流れついた。そのようなメカニズムの中で個人蓄財が起きた。
次のページへ ...