揺れるカシミール 廣瀬和司の緊急現場報告~本日、2名死亡 (2008/09/12)
ヤシン・マリク氏、ラル・チョークに現る
【スリナガル発(インド側)】
それは、私もいきなり不意を突かれた。ラル・チョークの象徴である時計台でジャム・カシミール解放戦線(JKLF)議長ヤシン・マリク氏(40)が、金曜礼拝の後、演説を始めたからである。
てっきり、彼は自宅拘禁されていると思っていたし、しかも、先月、大集会を開こうとして物議を醸し出したラル・チョークで集会を開いたからである。こんなことは誰も予想していなかっただろう。
JKLFは80年代後半から90年代前半までカシミールの独立を目指す最大の武装勢力だった。
その最高司令官だったヤシン・マリク氏は90年に逮捕され、獄中での度重なる拷問の結果、心臓疾患に罹り、その健康上の理由から最高裁からの命令で釈放された。
釈放されると、JKLFは一方的に停戦を表明し、非暴力の方法で独立を目指すことを発表した。ヤシン・マリク氏は、テロリストからガンジーになった男、としてインド国内外で有名な男なのである。
ちなみにこのヤシン・マリク氏、現在は拷問で顔つきが変わってしまったが、10代後半には西ドイツのモデルエージェントにスカウトされてモデルをしていた有名な美少年で、なんと日本の学生服のモデルもしたことがあるという(日本であるかどうかは疑わしいが)。
演説を始めると、時計台の周りはあっという間に人びとで埋まった。少なく見積もっても千人はいるだろう。以前、4、50人ほどの活動家だけでデモをやっていた頃に比べて、隔世の感がある。
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