中国との国境に近く全国の物資流通の拠点になっている清津市では、今では住民のおよそ3分の1は白米を三食食べられるようになった。
配給制とは無縁の商売が盛んで、私的雇用の仕事が多いからだ。むしろかろうじて配給が出ている国営炭坑や軍需工場の方が生活は厳しい。市場と私的雇用への接近が厳しく統制されるからだ。
「食わせてくれるのが国でも金正日将軍様でもないならば、なぜ彼を尊敬しなければならないのか?」
取材パートナーのリ・ジュン氏によれば、このような考え方が、この5、6年で急速に拡がっているという。
下からの市場経済が拡大していくのに伴い、指導者に対する忠誠心が希薄化していくのは、避けられないことのように思える。不動産取引や私的雇用の例をあげたが、市場のパワーは様々な分野で増殖し、政権の支配統制力は少しずつ弱体化している。金正日政権は、これまでにもまして、うまく社会をコントロールできなくなるだろう、というのが私の見立てである。
北朝鮮は、重い、重い病気にかかっている。国際社会は、その病が相当悪化していることは分かっているのだが、いったいなんの病気なのか、病巣はどこにあるのか、はっきりわからないでいる。診察をしたくても、服は脱がないし、脈も取らせてもらえないのだ。
この長患いの隣人は、現在は輸血でしのいでいるが、自力で病を治癒するのは困難なように見える。適切な治療を早く施さなければ病状は悪化するに違いない。
国を開き、経済を回復させ、人権状況を改善して、普通の国になってもらう。それが北朝鮮の人々にとっても、東アジアの安定を必要とする周辺国にとっても望ましいことは疑いない。
そのためには、何より、まず病の的確な診断が必須である。だからこそ、私は北朝鮮内部の人々と結びつき、的確で時宜に適った内部の情報を世に出していくことが必要だと考えるのだ。
北朝鮮は大きく変化している。私たちは、過去の「北朝鮮モデル」に拘泥することなく、隣国の変化を認め、それしっかり追尾していかねばならないと思う。(続く)
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