リャン:核を放棄して改革開放を進めれば、国民一人当たりの所得が三〇〇〇ドルに上がるよう支援するって話なんだが。
女性:数字としてはめっちゃ高い水準ね。
リャン:この提案をいいと思いませんか?
女性:李明博のやつは何か企んでるに違いないですよ。
リャン:なるほど……。
女性:私たちの頭の中には、とにかく米国は悪い奴、韓国は悪い奴ってのがあるので、韓国がまた何か企んでるに違いないって思うんですよ。
リャン:盧武鉉大統領の時はどうでしたか?
女性:あの時も、一般の人たちは同じこと言ってましたよ。また何か企んでるなって。でも一方で、米をくれるんなら、まあいいんじゃないとも言ってましたね。
リャン:送ってくれるならOKなんだ。
女性:私たちみたいな普通の主婦とか一般庶民は、米が入ってきて、各家庭で配給がもらえれば、「配給がもらえるの? やっぱり将軍様のおかげだわ」と考えるものなんですよ。
リャン:くれるなら誰でもいいってことですか?
女性:人民というのは、もらえるんなら喜ぶものなんですよ。「米が入ってくる? よかった、よかった」。それで終わりですよ。
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結局、「非核開放・三〇〇〇ドル」構想も一般の人たちにとっては、雲の上の話なのだろう。また、自国の政治に対する不信が強いので、南の大統領の「公約」も「馬の耳に念仏」なのかも知れない。
リャン・ギソクはこの取材を終えて、こう感想を述べた。
「私は今回の取材を通じて、南北間の意思疎通は容易ではないと痛感した。南の対朝鮮政策は、朝鮮当局に向けたものなのか、住民たちに向けたものなのかを、ちゃんと区別して出すべきだと思った。北の政府も同様だ。双方とも自分の意図が相手に通じなければ、コミュニケーションは成立しないということを認識すべきである」。
(整理 チェ・ジニ)
注1 大同江を延長八kmにわたってせき止めて、大型船の川の通行を可能にし、かつ干拓農地を造成しようとした大型プロジェクト。一九八六年に完工したが、農業生産は増えなかったし、立派な運河もできなかった。
注2 いずれも一九八〇年代に鳴り物入りで建設されたが、役立たずに終わった。
注3:現代財閥の創始者。北朝鮮地域出身で、一九九八年平壌を訪問して金正日と会談し金剛山開発など対北事業を始めた。