朝鮮で住宅が必要な場合、どうすればよいのか?
他の国々では、不動産市場で売り手と買い手が契約を結べばよいことになっているが、朝鮮では事情がずいぶん違う。
形式的には依然として国家供給制による「住宅割り当て」が存在しているが、実際には、住宅を購入するために、不正腐敗の横行する闇市場を介さなければならない。
社会主義を標榜する朝鮮で、共同所有が原則のはずの不動産が、いったいどのように取引されているのか? また、そのような現象は、朝鮮の社会秩序にどのような変化をもたらしているのだろうか?
〈インタビュー〉国家住宅はこうして売買される 1
北朝鮮内部記者 リ・ジュン/聞き手 石丸次郎
二〇〇七年三月、石丸次郎は朝中国境地帯に赴いた。北朝鮮内部に住む記者リ・ジュンに中国に秘密裏に越境して来てもらいインタビューするためである。多岐にわたったインタビュー内容のうち、不動産取引の実態について詳細に語ったものを整理した。
不動産所有意識の芽生え
石丸次郎:国家住宅や土地に対して、個人所有の観念が根付いているそうだが、それについて話してほしい。
リ・ジュン:闇で行われる住宅売買を通じて何が一番変わったのかというと、売買が繰り返されることで、一種の「権利」意識が住民の間に生まれたことだと思う。
品物を買ったら、「これは私のものだ」と考えるではないか。住宅についても同じで、「所有」と「権利」の意識が人々の中に形成され始めたのだ。それが一番変化した点だと思う。
これまで朝鮮の住民たちは、「国家の土地、国家の家」を使って暮してきた。何でもかんでも国家に依存してきたので、不動産とは何なのか、自分たちが国家からどのような法的、社会的保護や恩恵を受けているのかについて考えることもなかった。いや、知る必要もなかったし、知る権利もなかったのだ。
今になって、ようやく住民たちは不動産という言葉を使い始めたが、その概念に対する意識のレベルは、まだまだ中国には及ばない。不動産とは、土地に対する国家、あるいは個人の所有権に関することなんだよな、っていう程度だ。
住宅売買をするようになっていろいろ紛争が生じ、その解決のために奔走することを通じて、今まで自分たちが、国家によってどんな法的権利の保障を受けていたのか、あらためて考えるようになったわけだ。
朝鮮にも、千戸に一戸あるかないかくらいだが、個人所有の住宅がある。これについて国家が法的に認め、保護する規定があるということを、私も少し前に初めて知った。
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