「ヤギの選択に間違いはなさそうです。だから私もヤギについて行きます」(注2)
ナムジンは、張り裂けそうな心臓の鼓動を抑えて一字一字、何度も噛みしめるように読んだ。
*   *   *
数日後、それまでしかめっ面だったナムジンは、どうしたわけか朗らかに笑っていた。
《考えてみれば、軍隊に行っている俺の息子だって同じような境遇のはずだ。栄失ヨンシル(栄養失調のこと)にならないようにするには、ヤギを盗るしかなかったんだろ。それに、無理に連れていかれたんじゃなくて自分で決めて行ったっていうんだからよしとするか!》
しばらくぶりに元気を取り戻して灰の山の前に立った彼は小便を灰に引っ掛けて、少しすっきりした。

朝鮮の人々には、極端につらい目にあった時でも、それを笑いとばすという心の余裕が育ってきているようだ。そうでなければこの厳しい世の中を、どうやって生き抜いていけるだろうか?
「厳しく険しい道であっても、笑いながら進もう!」
先軍政治のスローガンもうまいことを言ったものだ。
資料提供 リュウ・ギョンウォン
二〇〇八年四月
(整理 チェ・ジニ)

注1 朝鮮の農家の庭先には、火を焚いた時に出る灰を集めてできた山がある。このようにして集めた灰を肥料として畑に撒くためだ。小便をその灰の山にかけると質がより良くなる。
注2 朝鮮では伝統的に、犬は食用に供される。

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