[柳本通彦] 台湾海峡天氣晴朗なれど No66
「チャイニーズタイペイ」2
検察特捜部の捜査は続いている。年末が目途だという。
陳水扁前総統が自ら海外の隠し口座を告白したのは、スイスの検察当局からの手がまわったからである。スイスの銀行の口座がチェックされるということは、よほど目立った動きがあったからだろう。
実際、陳一家は、二年ほど前、総統辞任せよ!の声が高まっていた時期に、国内の資金をいっせいに海外に送り、さらに地球的規模であちこちに移し変えていたようだ。その総額は、数十億円とも、百億円ともいう。
「一家」とかいたが、実際、嫁や嫁の家族も含めて、資金の移動には多くの親族や友人・きょうだいがかかわっていた。母親が運び屋役の息子たちに、あれこれ指示をしている姿はいかにも台湾らしい光景だが、どこか、離島の村長一家の台所を覗き見ている雰囲気でもある。
隠し口座の指図をしていたのは夫人の呉淑珍(ウースーゼン)だとみなは口をそろえる。総統自身も「自分は知らなかった」という。夫人は下半身不随の障害者であり、病弱なことから拘留される心配がないと見込んでいるのか。
彼らはマネーロンダリング法違反の罪とかで家宅捜査も受けたりしたのだが、問題はそのカネの出どこである。公金横領なのか、ヤミのカネなのか疑惑は深まるが、夫婦は、市長選挙以来繰り越してきた選挙資金であるといっている。
陳水扁あるいは民進党の選挙資金とは、その大半がカンパで成り立っている。企業からの献金もあったろうが、台湾庶民は選挙のたびに、集会のたびに、日本人の常識をこえるカンパを陳水扁ら民進党候補者に投じてきた。私は幾度も彼の選挙集会に参加し、その様子をこの目で見てきた。そうして集まった金を自らの懐に入れ、しかも奥さんがそれを一括管理し、お茶の間を舞台に財テクを進めてきたというのか。
メディアはもちろん陳一家とその周辺の動向を逐一伝える。もちろんご長女への突撃インタビューも敢行した。彼女は路上に転倒するほどの過激な反応を示しつつ、毅然とレポーターの質問に答えていた(というより泣き叫んでいた)。
彼女はそのなかで興味深いことを多々発言している。例えば、「カネが海外にあったら悪いの? 国内だったらいいの?」「独立運動には資金が必要なのよ」というもの。
彼女の口から「独立」という言葉が出るとはおもわなかった。
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