大村一朗のテヘランの風 世界ゴッツの日(08/10/12)
【ロサンゼルス・タイムズの記者から取材を受けるアフマディネジャード大統領/アーフターブ・ヤズド紙(2008.9.24付)】(撮影:大村一朗)
イランのアフマディネジャード大統領がニューヨークを訪問した。彼の国連総会出席も、今年で4度目となる。
アフマディネジャード大統領が国連総会で演説をした翌日の朝刊には、演説の内容より、ロサンゼルス・タイムズやCNNを始め、アメリカの各メディアの独占インタビューに笑顔で応じる、楽しげで、余裕たっぷりの大統領の姿が大きく報じられた。
「アメリカ政府は他国の国民と敬意をもって接しなければならない。他国の国民と敬意を伴う公正な関係を持たなければならない。我々もこうした環境において、アメリカと友好関係を持ちたいと思っている」
2005年のイラン大統領選挙で、唯一、アメリカとの関係改善を公約に掲げなかったアフマディネジャードも、任期が残すところ8ヶ月を切った今、ソフトなイメージを打ち出すことで、次期選挙に備えたいのかもしれない。
経済政策に対する国民の失望が広がる中、アメリカとの関係改善は、現政権への大きな期待と評価にもつながるだろう。
アフマディネジャード大統領が国連総会で演説を行なった3日後の9月26日、イランでは「世界ゴッツ(神聖)の日」のデモ行進が行なわれた。
イラン・イスラム革命の創始者ホメイニー師が、毎年ラマザーン月最後の金曜日を「世界ゴッツの日」とし、この日にパレスチナを支援するデモ行進を行なうことを世界のイスラム教徒に呼びかけたのが始まりだ。
この日、イラン全土で数百万人がデモ行進に参加し、テヘランでも主要な通りを埋め尽くした群集が、「アメリカに死を!」、「イスラエルに死を!」のシュプレヒコールとともに、挙を空に突き上げていた。
その日、私は職場へ向かうタクシーの中、若い運転手にゴッツの日のデモ行進について聞いてみた。しかし、帰ってきた答えは、「何の役にも立ちゃしないよ」とそっけないものだった。
確かに、所詮は官製デモであり、「パレスチナ支持」、「反米」、「反イスラエル」という国是を内外にアピールするためのイベントに過ぎない。政府が、各政府機関や国営企業、学校、そして体制支持母体に動員を呼びかけ、デモ参加者らは職場や学校から大型バスを連ねてやってくるのだ。
もちろん、パレスチナの現状に心を痛め、自分からこのデモ行進に参加する市民も決して少なくない。それに、この大々的なデモの様子が伝われば、それだけでもパレスチナの人々を勇気付けることには繋がらないだろうか。そう問うと、タクシーの運転手は言った。
「イランにはね、『モスクに明かりを灯す前に、自分の家に明かりを灯せ』という諺があるんだ。パレスチナを支援するのは立派なことさ。でもその前に政府はやることがあるだろ。日本は自国の発展を犠牲にしてまで、他の国を援助しているかい?」
イラン政府はパレスチナのハマス、およびレバノンのヒズボラを支援している。物質的な支援ではなく、精神的な支援であるとイラン政府は表明しているが、実際には国庫から莫大な金額がこの二つの組織に投入されていることも、アフマディネジャード政権になってからその額が更に増えたことも、国民の間では自明のこととされている。そして、経済の遅れと激しいインフレの中、こうした支援を疑問に思う風潮が激しくなっている。
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