このように、〈負債〉だらけの国の「唯一の指導者」の座を継承するというのは、茨の道をあえて進むようなものだ。
金正日は父親として、一族の安全保障を最優先に考えてきたはずだから、政事をさせて危険に晒すより、安全な場所で安穏に暮らせるようなポジションを模索してきたのではないかと思う。

だが、もし金正日が病気で、しかもその程度が重い場合、利権の維持拡大を狙う勢力が「唯一的指導体系」を堅持するという名目で、息子の一人あるいは一族の誰かを担ぎ上げる可能性はゼロとはいえないだろう。

しかしその場合も、「後継者」は、抱える物の重みに耐え切れず、やがて立っていられなくなるのは必至のように思う。
繰り返すが、「ポスト金正日」とは、息子のうちの誰が後継者になるのかという矮小なことではない。
金日成-金正日のみが統治するという唯一的指導体系は、次の指導者を想定していない。

「ポスト金正日」とは、金正日に異変が発生した場合に、この唯一的指導体系が、どのようにとり扱われるのかという問題、すなわち、北朝鮮国家の在り方の根本がどう変わっていくのかという問題なのだ。

経済事情の悪化
今後の北朝鮮情勢を展望するのは簡単なことではないのだが、一つ気になることがある。経済事情、とりわけ民衆の食糧事情が想像以上に悪いのだ。
内部記者の撮影してきた写真やビデオを見ると、コチェビと呼ばれる浮浪者と思しき人が、過去1、2年と比べて、非常に増えているのがはっきり分かる。

世界的な穀物と原油価格の上昇、中国の穀物輸出制限、韓国に支援要請をしなかったことなどから、北朝鮮国内の市場の食糧価格は昨年の二倍以上高騰しており、民衆は打撃を被っている。

過度に権力が集中する金総書記に異変が生じたことによって、今後政策運営に何かと問題が生じるのは避けられないと思われるが、それが社会混乱を招いて、さらに食糧にアクセスできない人を生みだすのではないかと心配だ。
平壌中枢ばかりでなく、北朝鮮の民衆の暮らしにも、国際社会が注目することを望みたい。

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