食糧価格は1年で2倍以上になった。10年ぶりの食糧危機に平壌市民は何を思うか。平壌市寺洞(サドン)区域にある松新(ソンシン)市場。(2008年6月末 ペク・ヒャン撮影)
食糧価格は1年で2倍以上になった。10年ぶりの食糧危機に平壌市民は何を思うか。平壌市寺洞(サドン)区域にある松新(ソンシン)市場。(2008年6月末 ペク・ヒャン撮影)

 

二〇〇八年に入り、世界的な穀物価格の上昇が続いている中、朝鮮でも今年三月からその傾向が顕著に現れ始めた。
上昇は五月中旬がピークで、六月、七月の時点では食糧の主要穀物であるトウモロコシと白米の一キロ当たりの平均価格は、それぞれ一五〇〇ウォン、二五〇〇ウォン前後に落ち着いている。

白米の価格と労働者の平均月給がほぼ同額という状態(すなわち朝鮮式物価指数で言うとほぼ「1」)(注1)は、九〇年代の食糧危機の時代でさえもごく一時的にしかみられなかった現象である。
九〇年代がそうであったように、現在の朝鮮の社会は、一旦このような危機的状況が発生すると、食糧への接近権(entitlement)を失くしてしまう約一〇%の脆弱層の住民(およそ二〇〇万人と推定)を生む。いくら外国から人道的支援の食糧が入って来ようと、この層の人たちにまで行き渡るような社会構造が朝鮮には存在せず、現在、大量餓死発生の危険性が増大した緊張状態にある。

朝鮮政府の報告に基づいたと思われる国内の食糧保有量に関する各統計値にはかなりのばらつきがあり、それは住民の一般消費量を考えると、相当の未知の在庫量が国内に存在するとことをうかがわせるほどである。
ただでさえ朝鮮の経済が破綻状態にある中で、このような透明性を欠いた政権のもとでは、今般の食糧危機からの回復は見込めず、筆者は第二の大量餓死者の発生を憂慮して止まない。

さて、この度の解説では、今年三月から六月までに発生した朝鮮の食糧問題について、その特徴や背景を探るとともに、問題を深刻化させている不適切な政策要因の存在について言及する。そして、悪夢のような九〇年代の食糧危機との比較から、現在の食糧問題解決のための課題を提起したい。
なお、この解説文を書くにあたって根拠とした情報は、朝鮮内部の記者たち、協力者たちが、四月以降、ほぼ連日にわたって送ってくれたものである。
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