政治は腐敗し、経済は破綻、社会は無秩序に陥って久しい北朝鮮だが、もう一つ深刻な問題がある。それは国家と民族百年の大計たるべき教育である。
表向きは無料教育の看板を掲げているが、その実、朝鮮の教育は「資本主義の商業的教育」よりはるかに深刻な状態にある。
編集部は、幼い子供たちに対する国家による収奪、教員と学校による度を超した金品の要求、商業化した運動会、学校教育の空洞化に伴う私教育ブーム、子供たちの学力低下、旧態依然とした教授方法など、様々な問題を巡って悩む保護者と教員の声を、シリーズで伝えていくことにした。
本シリーズは、学校に通う子を持つ母親である、リムジンガン記者のペク・ヒャンが、北朝鮮の教育の実態を記録、報告するために重ねてきた取材に基づくものである。彼女が送ってくる録音テープには、北朝鮮の学校の実情が実によく表れている。
整理者は、同じ子を持つ母としてその内容に深く共鳴しつつ、読者のよりよき理解のため、インタビュー記事を以下のような物語風に整理した。文責は整理者にある。
今回掲載する内容は二〇〇六年一〇月、咸鏡北道のある女性の身に起こった出来事に基づくものである。
(整理 チェ・ジニ)
早朝、ヒョクの母さんは起きてすぐに米の仕入れに出かけた。玄関を出たところで、冷たい風に息が詰まりそうになった彼女は、一度家の中に戻ってコートを着こみ、マフラーをしっかり巻いた。
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