米の卸売の所に行くと、以前約束していた値段より高い値段で売ろうとする。なだめすかし頼み込んだところ、ようやく「宣伝隊(注1)だったあんたの器量に免じて、五〇万コチェビを一人救済してやるとしよう」と言って元の値段に戻してくれた。

「やだわ、あたしも一〇〇万乞食(注2)を卒業してずいぶんになるのに」
「じゃあ、もっと出しな」
「なに言ってるの。これ以上出すもんですか。そっちが最初の約束を破ったんでしょ? じゃあね」
「全部売れたらまたおいで」
予定通りの値段で買えたおかげで、他の人たちよりいくらか安く売ることができた。当然、早く売り切れた。一日かけて売るつもりだった量が昼過ぎまでに売れたので、いい気分だった。

屋台の飯屋に行き、ちょっと贅沢して肉のクッパ(汁ごはん)を注文した。ところが、屋台の女主人から熱いスープの入った器を受け取った瞬間、談笑しながら通りかかった軍人たちが私の腕にぶつかり、手が滑ってしまった。ガチャン! 熱いスープが私の手と足元にかかり、地面に落ちた器は割れてしまった。
「熱つっ! まったく、もう!」
一瞬間にして気分は台無しになってしまった。屋台の女主人にしょう油を一さじもらってやけどしたところに塗り、割れたどんぶりを弁償した。仕方なく白いご飯だけ適当に食べて自分の屋台に戻って座っていると、屋台の間をうろうろしている中学生の姿が見えた。
◎  ◎  ◎
《また学校で何か持って来いって言われたのかな?》
ひまわりの種だとかウサギの毛皮だとか言って騒いでいる声がそちらから聞こえてきた。
《うちの子も来るんじゃ......?》
案の定、娘が向こうの方から駆けて来た。
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