「母さん、お金!」
「何なの、お金って!」
いらいらしながら言い返した時、今度は横の方から別の声が聞こえた。
「ヒョク君のお母さん、こんにちは」
声のする方を見ると、息子のヒョクを連れた担任の先生が立っている。
「あらまあ、先生。どうかしましたか?」
私は思わず訝しげに先生を見てしまった。
先生はほほ笑みを浮かべながら説明を始めた。上部から指示が下りてきたのだが、そのまま子供たちに指示するのは教育的にあまり良くないと思うので、自分が保護者に直接お願いして回っているのだと言う。
母親が先生だけを相手にしているのが不満なのか、娘が私の耳元にささやいた。
「もうすぐ集合時間なの。早くお金ちょうだい」
そんな娘に先生が言った。
「ウネはいつも英語の点がいいわね」
「でも先生、アカシアの種のおかげで最近、英語の教科書を見る暇もないんです」
娘の返事に私は驚いた。
「あら、そうなの? でも、アカシアの種なんて何にするの?」
「植えるんでしょう? 国土(注3)が」
「アカシアじゃなく、ひまわりの種じゃなかったっけ?」
先生がつぶやいた。そう言えば、さっき通りすぎた子供たちはひまわりだとか言っていた。
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