「そうそう、ウサギの毛皮、それからええっと......。ふう、私ももういい加減うんざりしてるんですよ」
「まったく。こんなことなら学校にやらないほうがましだわね！」
親より先回りして愚痴る先生に、釘を刺してやった。
「えーと、なになに？ ひまわりの種に、クズ鉄に、今度はウサギの毛皮？ これじゃあ母親のあたしも訳が分かんないわ」
隣でしょんぼり立っていた息子が、私と目が合うと、だしぬけに「母ちゃん、古紙一キロだけ買ってー」とダダをこねるように言った。
「何言ってんの、そんな金ないよ！」
「フフフ」
先生はのんきに笑っているが、私はますます語調を強めた。
「ひまわりの種に、それに何、ウサギの毛皮？ それから、さっき何かで金出せって言ってたね？ え？ 何を出せって？」
「クズ鉄です」
今度は私が思い出せないでいると、先生が口を挟んだ。
「そう、クズ鉄。それでも足りずに、金出せっての？」
「古紙」
ダダをこねていた息子がはっきりとした口調で言った。
「古紙まで......！」
息子を睨みつけていると、先生が私に代わって言った。
「クズ鉄に古紙！ ふぅ......」
（つづく）
注１ 一定の規模以上の機関、企業所には生産意欲高揚のために宣伝隊が置かれ、容姿のよい者、楽器や歌や踊りに長けた者が選抜された。
注２ 五〇万コチェビ／一〇〇万乞食 二〇〇〇年以降、朝鮮では急速にインフレが進み、貨幣価値は一〇分一以下に下落した。かつて一万ウォンと言えば大金であったが、最近では、五〇万ウォンや一〇〇万ウォン程度持っていても大した生活はできないという意。
注３ 国家の国土管理機関、またはその活動。
注４ 少年団は、金日成社会主義青年同盟傘下の団体だ。中学生は少年団員でもあるため、青年同盟、学校の計画する、各種物品の収集ノルマをこなさなければならない。そこに、国防を司る国防委員会（委員長は金正日）まで、ノルマを要求するようになったのだという。
おすすめ＜北朝鮮＞ 写真特集・無料動画…
