[柳本通彦] 台湾海峡天氣晴朗なれど No68~「Xデー」その2
我らがシンデレラ、陳総統のご長女が、昨日新しい行動に打って出た。台湾の日刊紙の意見欄に自分の主張を投稿したのである。
見出しは「病気なのはマスコミのほうであって、私ではない」。本名の陳幸(チェンシンユイ)を使い、肩書きは「歯科医」。
内容は、始終カメラに監視されていることの苦渋を綿綿と述べ、メディアへの批判を展開したもの。自分を一人の庶民といい、自由を束縛されることの非道に悲憤慷慨している。また、母親の交通事故を政治テロと断じ、父親が政治犯として刑務所に入っている間の苦労を回想したりしている。
確かに、一理はある。台湾のマスコミは病んでいる。ジャーナリズムとしての矜持をもたない。しかし、一千字の文章のなかに、総統一家にあってはならない一連の行為の数々について、一言のお詫びも申し開きもない、というのはどうしたことだろう。可哀相な三児の母を演出する表現に、同情も喚起しようが、反発はもっと大きかろう。
しかし、こうした異常な環境にありながら、歯科医として毎日診療所に通い続けている根性にはしたたかなものがあるし、患者として通い続けている人がいるなら、その人には敬意を覚える。
一方、シンデレラのお兄さん、すなわち総統の長男とその嫁のほうもすごい。来週中にも呼び出しを受け、そのまま身柄が拘束されるだろうというのが下馬評。そのなか、台中の三越デパートでドイツ製の掃除機( 約5万円 )を買ったり、転居を予定している高雄の高級マンション( 180坪 )を見学に行ったりしているのが目撃された。
彼らは資金を海外に移した際の実行犯である。来週には逮捕されるかもしれないというのに、このノーテンキはなんだろうか。これこそが台湾人・漢民族のタフな強さなのかもしれないが、プレッシャーで政権を投げ出す人たちに見せてあげたくらいだ。
この間に、拘留される人間が二人増えた。一人は総統夫人・呉淑珍の実兄、もう一人は、調査局長。調査局とは、警察や検察とは別個に国家の政治・経済にかかわる重要事項について調査権を執行する政府機関。簡単に言えばCIAのようなもの。その局長が逮捕された。一家にかかわる捜査状況、スイス当局からの問合せなどを逐一、陳水扁に報告していたというもの。国家機密の漏洩にあたるらしい。
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