すると男はにやにや笑いながら「鼻水が中に入ったんで、すくい出そうと思いまして」と言った。
両班は仕方なくその麺を作男に食べさせ、もう一度新しい麺を買って来させることにした。その日、作男は残り物を混ぜただけの弁当ではなく、自分の大好きな麺を食べることができたのだった……。
太っちょおばさんが営む冷麺屋の屋台は、いつものとおり客で一杯だった。
ここの常連客である私は、ノンマ麺(注2)を注文し、客の隙間に腰掛けた。長椅子にずらりと並んだ人びとは、寒さに震えながらも冷麺をおいしそうに食べている。
冷麺を食べ終わった私の前に腰掛けている男性客が、屋台のおばさんに向かって大声で尋ねた。
「このノンマ粉だけは、下の村(韓国)から送ってきたもんじゃないだろうね?」
隣の米屋から返事が返って来た。
「戦利品として送ってもらったんならいいんじゃないの?」
「わはは」
冷麺屋台にどっと笑いが広がった。
「食べさせてもらってるくせに文句が多いなあ」
反対隣の温麺屋台の若い女が放った意地悪な言葉で、笑い声がまたひときわ大きくなる。
今度は私の隣で冷麺を待っていた軍隊の冬服を着た青年が言った。
「ぼろをまとい飢えに苦しむ南(韓国)にノンマ粉があるわけないだろ」
太っちょの冷麺売りのおばさんが答えた。
「あたしらも以前は南朝鮮の人たちは可哀想だと思ってたわよね。党にそう教育されたからね」
「それじゃ、南朝鮮のやつらに、持ってきた米を持って帰れってのかい?」
除隊軍人の冬服の青年が露骨に挑発すると、あちこちからくすくす笑う声が聞こえる。
「そうじゃなくて、南朝鮮の同胞を大事に思ってたってことですよ。今もそれは同じだしね。ただ、あたしが言いたいのは、『どうして同胞なのに北と協力しようとしないで、アメリカにばっかりくっついてるのか?』ってことですよ。他のことは知りませんよ」
すると、屋台の横のテーブルで冷麺を食べていた角ばった顔の男性客が箸を持ったまま乱暴に言い放った。
「他のことは知らない? 南朝鮮が俺たちよりもいい暮らしをしてるってことは、誰でも知ってることじゃないか? 冷麺屋は一体何考えてんだ?馬鹿じゃねえのか?」
「そうですよ。南朝鮮が世界で指折りの場所だってことは、今じゃ三つの子供でも知ってますよ」
冷麺売りのおばさんが言った。
次のページへ ...