商売人は客に従順だ。客は気に入らなければ食べかけの器を置いて帰ってしまうのだから。
「そしたら、そのことを喜んでるのか? 妬んでるのか?」
こう絡む冬服の青年に、冷麺売りのおばさんがすかさず言葉を返した。
「同じ民族なのにどうして妬んだりするんです? あたしらは、国防に回すから人民の生活が貧しいんですよ。それははっきりしてるでしょう? 『国防力だけは強い』人民はみんなそう信じてるんじゃないの」
「じゃあ、あっちは弱いってことか?」
「さあ、それは……。あたしらは国防だけは強いっていうことだけは信じてますよ。だって、人民が飢えていても、国防には集中してお金を入れたんだから。
口には出さないけど、お客さんの言いたいことはちゃんと分かってますよ。『われわれは国防力が強い、南朝鮮は経済力が相当に強い。だから二つが早く統一されればお互いうまくいくはずだ』でしょ?
なのにどうして南朝鮮はアメリカとばっかりくっついて、われわれ朝鮮人民と一つになろうとしないのでしょう?」
おばさんは、こんな風に、政治的に危なっかしい話を無難に収めてしまった。商売がうまくいくのも、この仕切りのうまさのおかげなのだろう。
角ばった顔の客は、冷麺を食べ終えるとがばっと立ち上がり、代金をテーブルの上に投げ出すように置いて出て行った。
私はおばさんのところまで行って冷麺代を払いながら、それとなく尋ねた。
「おばさん、共産大学はいつ出たの?」
「ほほほ、お客さんたら。共産大学なんてとんでもない。あたしゃジャンマダン大学出よ」
「それはすごいな」
「軍事強国の北と経済大国の南が早く統一されればお互いにいいってことですよ。商売もみんな同じよ」
おばさんの素朴な考えを聞いて、私に渡す釣り銭を数えているおばさんに、
「それは、今さっきいい話を聞かせてくれたお代ってことで」
と言って笑顔を見せると、「また来てね」と気持ちの良い声が返ってきた。
資料提供 シム・ウィチョン(沈義川)
二〇〇七年三月
(整理 チェ・ジニ)
注1 朝鮮朝時代に風刺の利いた寓話を数多く残した。全国を歩きながら巧みな話術で貴族から大金をせしめるストーリーが有名。
注2 ジャガイモなどのでんぷんで作った麺。
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