自分が勝ったことに気をよくしたテソンは考えた。自分の妻が何もチュンシルでなければならない理由はない、テソンと一緒になりたいという女は他にいくらでもいる、と。
テソンは判事を丸め込み離婚裁判の手続きに取りかかった。権力を金で買い、静かに妻を追い出そうというのだった。
だが、テソンは大きな誤算をしていた。そもそもチュンシルは浮気を始めた時から、夫との間にこういった事態が起こることを見越して、保安員(警察官)を相手に選んでいたのである。
保安員は夫婦の揉め事に巻き込まれたとなると、即刻免職になる。制服を取られてしまえば保安員もただの人になる。保安員がそれをそうやすやすと受け入れるはずがない。
テソンが請求した離婚が成立するという事は、チュンシルの浮気を認めるということだった。そうなれば、チュンシルが浮気をした相手に問題の矛先が向けられる。
下手をすれば保安員自身の身が危ない。従って、保安員としてはチュンシルの離婚を阻止するしかなかった。
もちろんチュンシルも離婚すれば無一文である。
結局、テソンは訴訟に惨敗した。
ところが、これに怒り狂ったテソンが、妻に対してめちゃめちゃに暴力を振るうようになった。
チュンシルは自分で墓穴を掘ったような形になり、窮地に追い込まれた。暴力を受け続ければ殺されてしまうかも知れない。
ついに理性を失ったチュンシルは、金に目がくらんだ男たちに夫の殺害を依頼した。
いくら金があるといっても一介の商売人に過ぎないテソンを数人でかかって殺すことぐらい、わけないことだ。これが朝鮮の現実である。
どこの馬の骨かもわからないゴロツキたちに前金を渡し、事が首尾よく終わった後の報酬もたっぷり渡すという約束をした。
次のページ: 次のページへ :こうしてたったの三〇万ウォン...... ↓
1 2