[柳本通彦] 台湾海峡天氣晴朗なれど No69~「Xデー」3 

DSC03710-thumb.jpg【先日の日曜日の中正紀念堂。仮装行列がおこなわれていた】

「海角七号」という映画が大ヒットしている。興行収入四億元(12億円)。台湾映画史上最高記録を塗り替えたというからすごい。

物語は単純である。台湾南部の田舎町に日本の歌手 ( 中孝介本人が実名で出演 ) が来演するというニュースが伝わり大騒ぎに。町では地元バンドを結成して前座で出すことになった。ところが集まってきたのがとんでもない人たちばかりで、プロデュース役の日本人女性との間でドタバタ劇が繰り広げられる、というもの。

監督から役者まで新人と素人ばかり。未整理な部分も多く、いわゆる玄人受けするフィルムではないのだが、なかなか面白い。

市内では「もう見たか」「もう3回見たわよ」という会話があちこちで交わされているらしく、リピーターが相当にいないと、これほどの興収はあがらないというのが専門家の弁。しかしいま、なにゆえ「海角」なのか。その背景をめぐって、さまざまな議論が交わされている。

例えば、これは落とし込まれた台湾人意識のノスタルジアだという説。このところ、テレビは陳水扁事件のことばかり。彼に台湾の未来を託していた台湾の庶民は惨めな日々を送っている。台湾独立なんて総統の蓄財の隠れ蓑に過ぎなかったのだ。この映画は、そんな現実から暫し逃避させてくれるというのである。

たしかに登場するのはいかにも台湾らしい、おっちょこちょいだが、気のいい人たちばかり。しかもメインとなるバンドメンバーは、福建系のミンナン人、広東系の客家人、そして原住民と、各民族がそれぞれ個性を発揮しているだけでなく、日本人までが彼らのサポート役で登場する。ところが故意なのか偶然なのか、外省人だけは姿がみえない。

外省人がいなくて、日本人がうろうろしているという光景は、まさに戦前の台湾である。「海角」は外省人が台湾を荒らしに来る前の「古きよき台湾」を映し出しているといえなくもないのである。
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