タンザニアのミクミにあるレストランで、私は遅い昼食をとっていた。国立公園に野生動物を見に来た観光客が立ち寄る、外国人向けのちょっと高級なレストラン。お客は私だけ。周辺に住んでいるのであろう男たちが、空いた席を陣取ってサッカー観戦をしていた。
私は、わざと、彼らからできる限り距離をとって席に着いた。コーラを注文したり、トイレに向けて席を立ったりしたときに、私の顔を遠めにじっと見つめる者もいたが、ちょっと珍しいアジア人の顔を眺めることよりも、試合に一喜一憂することのほうに、遥かに気が行っている。
どうしても私の顔立ちの珍しさが気になるのか、私の顔を見ながら隣の友人に耳元でなにかをささやいている少年もいたが、ささやかれたほうは耳元を手の甲で払うのみ。私としては、しめしめ、である。
全般的に、アフリカ諸国の人々のサッカーに向ける関心は極めて大きい。各家庭にまではテレビが行き渡っていないため、バーやカフェ、レストランなどに置かれたテレビで観戦をしている。アフリカ勢の試合ともなると、学校ひとクラス分くらいの人数が集まることもある。
お客を集めるためのテレビなのだろうが、サッカー観戦は例外であり、何も注文せずとも追い出されることは無い。ブラウン間の光があたって青くてかった顔は、真剣そのもの。どの顔も、20インチもない大きさの画面に吸い寄せられている。
フライドチキンを平らげて満足している私の前を、「チャイニーズ!」と言って笑顔で親指を立てて、ある男が通り過ぎた。ちなみに、この場合における彼の言葉を意訳すると、「やぁ、アジア人!」となる。より正確でより深い世界観を形成してもらいたい思いをこめて、こちらも笑顔で「ジャパニーズ」と応えた。
テレビを見ていた男衆の耳が、私のこの一言をひろった。ブラウン管の向こうの世界とミクミのレストランが、彼らの頭の中で繋がった瞬間。みな一斉に、こちらを振り向いた。あぁ、やってしまった…。
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