大村一朗のテヘランの風 香港・新世代の横顔 1

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【赤いビニールテープのパフォーマンス】

テヘランの風
香港・大埔(タイポー)地区。香港の最も繁華な九龍地区から北へ15キロ、バスで30分ほど走ったところにあるこの地区は、30階建て以上の高層アパートと、昔ながらの市場がこん然と交わる人口30万人のベッドタウンである。今夜この町で、若者たちによる、ある政治的な集まりがあると聞き、訪ねてみた。

夜の9時、まだ多くの店や食堂が賑わう表通りから薄暗い小道へ道を一本折れると、目当てのバーはすぐに見つかった。広々とした店内には、すでに50人以上の若者が、店内の一角にしつらえられたステージを囲むように座り、ビールのジョッキを傾けていた。

ステージでは、赤いビニールテープで全身を隙間もないほどぐるぐる巻きにされた男が一人、肩で息をしながら座っている。観衆が固唾を飲んで見守る中、突然、彼は絶叫しながら内側からそのビニールテープを破り始めた。

片手を外にねじり出すと、その隙間を引き裂き、頭を出し、あたかも蝶がサナギからかえるかのように、少しずつその赤い殻を内側から引き裂いていく。しかし、何重にも巻かれたビニールテープは容易に引き千切れるものではない。

彼の獣のような叫び声と荒い息遣い、そして、声援と拍手を送る客たちの声が店内に響く中、彼は10分ほどかかってようやく赤い殻から半身をねじりだした。
ところが、彼はふところから赤いビニールテープを取り出すと、今度は自分で頭の先から自らをぐるぐると巻き始めた。そして機用に上半身を巻き終え、また動きが取れなくなったともがき苦しむ。そして少しずつ、叫びも、息遣いも静まり、死んだように動きを止めると、彼のパフォーマンスは終わった。

「赤いテープは、中国を意味しているんだろうね」
「じゃあそこから抜け出そうとしている彼が、香港ですね?」
「香港かもしれないし、彼自身かもしれない」
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