「なんでせっかく抜け出したのに、また自分でテープを巻き始めたんでしょうか」
「どうだろう、パフォーマンスだからね、すべてに決まった答えがある訳じゃない。見る人それぞれに受け取り方は違うんじゃないの?」
横に座っていたその男性によれば、このパーティーは毎月インターネットで告知され、何かを表現したい人は、プロ、アマを問わず、誰でも参加できるのだという。もちろん、酒を飲みながら見物するだけでもいい。今夜ここには、この催しを目的に訪れた若者だけでなく、普段からこのバーに通う常連客も多くいるという。止まり木にはそうした年配のお客さんの姿も目立つ。
その後、詩の朗読が行なわれたり、ギターを持った青年が70年代の歌を歌ったりした。年配の常連客もステージに上がり、若者と声を合わせて歌っていた。場は盛り上がる一方だったが、次第にただのカラオケ大会のようになっていった。
「もうパフォーマンスはないんですか?」
「あったんだけどね、さっきあのあたりに座っていた人たちいたでしょ?アーティストで、今夜ここで何かやる予定だったんだけど、ここは自分たちには合わないって言ってさっき帰っちゃったんだ」
「政治的な集まりって聞いていたんですけど、まるでカラオケ大会ですもんね」
「そうね、こういうのも悪くはないけど、真面目な芸術家が来なくなっちゃうから、別の日に分けてやった方がいいかもね」
「主催者の方はどう考えているんでしょうか」
「主催者は、地域の人と一緒に楽しめる場がほしいって言ってるよ」
「どの方ですか?」
「ほら、あの女の子」
それは、さっきからステージで歌ったり踊ったり、今はマイク片手にテレサ・テンの『時の流れに身をまかせ』を熱唱している小柄な女の子だった。(つづく)