ある大都市の民家の中。内装や家具は個人が好きに買ったりしつらえたりできるので、金さえあれば高級品も手に入るようになった昨今、住宅に対する所有意識はますます高まっている。(2006年秋 シン・ドソク撮影)
ある大都市の民家の中。内装や家具は個人が好きに買ったりしつらえたりできるので、金さえあれば高級品も手に入るようになった昨今、住宅に対する所有意識はますます高まっている。(2006年秋 シン・ドソク撮影)

 

〈現場ルポ〉画家アン先生の住宅売買交渉 取材:リ・ジュン
【二○○六年一二月、リムジンガン記者、リ・ジュンは咸鏡南道某市内のある家で、現金による住宅の売買が行われるという情報を聞きつけ、現場で録音取材することに成功した。その取材音声の一部を、チェ・ジニが小説風に整理したものである。】
二○○六年一二月のある日のこと。瓦工場で働くドンスは、大金の入ったカバンを小脇に抱え、美術家同盟のメンバーである画家の安(アン)先生の家に足早に入って行った。

アン先生は、国家から割り当てられ、今日まで住んできたこの家をついに売ることにしたのだった。
金縁のメガネをかけ、つやつやの革カバンを持ったドンスを、アン先生の一家全員は立ち上がって迎えた。まるで外国からやってきた代表でも出迎えるような雰囲気である。

「まあまあ、座って座って。なんだ、私が何か悪いことでもしに来たみたいじゃないか。しかしアン先生は、毎日のんびりと絵ばかり描いてればいいんだから、うらやましいよ......。ところで、出張に行くとか言ってたが、行かなかったのかい?」
「通行証明書が今日出たばかりなもんで......」
「美術家同盟から給料はちゃんと出るのかい?」

「生活費と、まあ、制作費も出るよ。あと、私の身分証は地方ではなく中央の同盟のものだから(何かと優遇されるのだ)」
アン先生の返事を上の空で聞きながら、ドンスはこれから自分が買おうとしているこの家の値踏みでもするかのように、あちこちを見回している。
ドンスにとってアン先生は、自分が労働者として汗水流して働いていた頃には、まともに顔を見るのも恐れ多い有名な美術家先生だった。ましてや、彼が住む家を自分が買うことになろうとは思ってもみなかった。

ドンスは満足感で胸がいっぱいだった。以前は、瓦工場で黙々と働き、朝早くからジャンマダン(市場)をうろついて、やっとタバコにありつけるというような生活を送っていた。
ところが、配給で生活していた社会主義時代が終わったとたん、特別待遇の配給を受けていた美術家先生と、商売に手を染めた自分との境遇は逆転したのである。

アン先生はそんな彼の気分を察したのか、自宅の設備の説明を始めた。
「奥の部屋は電気オンドルだよ」
「電気の暖房も、ちゃんと動かしてないと湿気が回ってすぐダメになる。日本製でも同じだよ。ちゃんと使ってないと。これじゃあ、冬は寒いだろうな」
話の腰を折られたアン先生は、他にアピールできるところはないかと必死で考えた。
「ここの人民班長はいい人だよ。それに、この家は、このあたりでも特に水の出がいいんだ」
「他の家が出ないときでも?」
「......」
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