当時の首相鳩山一郎(日本民主党)の国際会議での発言を問題視するこの質問に対して、留守を預かる重光葵(外相兼任)がこう答えた。
「この文字を用いました趣旨は、これは御了察を得ると思いますが、多くの人員を持ち、多くの労働力を持っておるということなのでございます。文字そのものが用語としてあるいは不適当であったかもしれませんが、それは精神はそこにないことを一つ御了承願いたいと思います」

この官僚的なそつのない答弁に対し井堀は、「民主主義というものは人格尊重の上にある。物と人間とを並べて考えるということは、単に不用意だということでは許されまいと思う」と重ねて批判している。

戦前から労働組合運動に奔走し、戦後は生活協同組合の活動にも力をそそいだ井堀は、その「人的資源」批判において、「日本だけでなくアジア地域と言っている」と鋭く指摘している。
それは、かつて日本植民地下や占領下に置かれたアジア各地の人びとが、「人的資源」として強制労働に動員された史実を踏まえてのことであろう。

なお、この年11月、日本民主党と自由党が保守合同して自由民主党が結成された。同年10月には左右両派の社会党も統一している。いわゆる「1955年体制」の成立で、保守と革新の対立はありながらも、自民党の安定的多数優位による長期政権の時代が始まった。 ~つづく~
(文中敬称略)

★新着記事