【「人を殺したる者は死刑、無期または5年以上の懲役」と定めている韓国の刑法。1997年以来、死刑は執行されていない】
「死刑制度」を巡って韓国で論争が巻き起こっている。
韓国は1997年12月30日に23人の死刑を執行して以来、金大中、慮武絃政権とも一度も死刑執行をしておらず、昨年末には国際人権組織のアムネスティから「実質的な死刑廃止の国」として認められている。
しかし、女性や子供を拉致して殺害する残虐犯罪が相次ぎ、死刑復活を求める声がネットを中心に急速に広がり始めているのだ。
世論調査機関・リアメートルが昨年3月におこなった調べによると、57%が死刑制度を「存続すべき」と答え、「廃止すべき」(22%)を大きく上回った。2006年9月の調査と比べると、死刑制度存続に賛成の答えが44.9%から12ポイントも上がっている。
国会では99年に初めて「死刑制度廃止法案」が発議され、2004年には国会議員の過半数を超える175人が署名して法案が提出されたものの、05年に一度公聴会が開かれた後は、棚ざらしのままで審議すら行われてこなかった。
しかし凶悪事件の続発で、死刑復活を求める政治家も出始めた。元国会議員で京磯道の金文沫(キム・ムンス)知事は、21人を無差別に殺害して死刑宣告を受けた04年の「柳永哲(ユ・ヨンチョル)事件」を例に挙げ、「死刑制度がなければ、国家の綱紀確立ができない」とし、死刑制度廃止に反対の声を上げている。
一方で、死刑制度廃止の流れを止めるな、という主張も広がっている。「柳永哲事件」で妻・母親・一人息子の3人を殺された被害者家族は昨年10月、ソウルで開かれた「死刑廃止国家への宣布式」の場で「死刑囚を殺しても犯罪率が下がるわけではない。犯罪を防げなかった社会の共同責任を個人にだけ負わせる死刑制度は無くすべき」だと訴えた。
死刑の本質は犯罪予防より、犯罪に対する応報の見せしめ、あるいは復讐としての機能だとして、被害者の立場から死刑廃止を唱えた発言は重く受け止められた。
韓国は1970~80年代の軍部独裁政権時代の”司法による殺人"に対する拒否感が今でも強い。朴正煕政権下の75年、北朝鮮から命令を受け、国家転覆を図ったとして8人が死刑執行された「人民革命党事件」では、判決から18時間後に刑が執行された。
その後、処刑から32年たった2007年1月、再審でソウル地方裁判所は、事件は政府によるでっちあげだったとして、無罪とした。
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