
拡散する金正日重病説 北の民衆はこう受け取った 2 石丸次郎
北朝鮮の人々の敏感な反応(承前)
もう一人は平安北道から同じく数日前に中国に出て来ていた貿易商のBさん。
彼は淡々とした口調ながら、表現には露骨な言葉を交えて、次のような感想を述べた。
「金日成首領様が生きているときは、暮らしは今のようにひどくなかった。将軍様のせいでこうなった。みんなそう思っている。政治が早く変わらなくてはだめですね。将軍様が病気になったのだとしたら、いつ死ぬんだろう。早く死んでほしいね。
おおっぴらには言えないけれど、仲のいい者同士では、こんな話もするようになったんですよ」
普通、北朝鮮の人間が初対面の者に《金正日批判》をすることは極めて稀だ。
Bさんを引き合わせてくれた旧知の中国人が、筆者のことを「この人は秘密を守ってくれる」と言ったくれたことが、Bさんをして初対面の外国人に本音を語らせた理由かもしれない。

翌九月一一日、北朝鮮内部の取材協力者に電話をかけてみた。朝中国境地帯では、中国の携帯電話の電波が豆満江と鴨緑江を越えて北朝鮮側数キロ内にまで届く。
鴨緑江上流の恵山(ヘサン)に住む取材協力者Cさんは、電話を受けるや、
「将軍様の身に何か起こったかもしれない」
と、金正日が建国記念日に姿を現さなかったことを筆者よりも先に切り出した。興奮を隠せないような口ぶりである。
私は、金正日は八月に倒れて脳の手術受け、現在は回復に向かっているという情報が世界を駆け巡っていると伝え、北朝鮮内部の雰囲気はどうですかと尋ねた。
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