我が国の経済動向 18
各企業レベルでの「経済指導」の実態
リュウ・ギョンウォン:一企業所の内部から見たときの「経済指導」はどうか?
ケ・ミョンビン:では、一つの企業所の枠の中での「経済指導」を見てみよう。
企業所内部では、物資と金に関する決定権を巡り、支配人と党秘書(書記、「党機関」の責任者)の間に必ず軋轢が生じるような構造が、昔からできあがっている。
企業所における「経済指導」は、実際のところ、「大安(テアン)の事業体系」(注1)をはじめとする様々な形の「経済指導体系」とはかなり違った様相を呈している。
企業所では、支配人には人事権はないが、部分的ながら財政決裁権がある。軍隊支援物資を抜き取ろうが、徒党を組んで資材を横流しようが、金を横領しようが、民防衛隊(民間人の軍事動員組織)訓練用の物品を徴発しようが、全て支配人の権限でどうにでもなる。
だが、党秘書が金品に手を出そうとしても、支配人の決裁がなければ法的に追求されてしまう。いくら人事権を振りかざす横暴な党秘書であっても、自分で直接金品をせしめることはできない構造なのである。
従って党秘書には、「政治指導」の名目で支配人を政治的に押さえつけ締め上げて「賄賂」を収めさせる手腕が必要となる。そうでなければ、自分の腹を満たすことはできない。こういったことは、どこにあっても構造化されている。
このような「経済指導」という名目の下、企業所の収益を巡って繰り広げられる熾烈な闘いで、党秘書が支配人に負けるようなことは絶対にありえない。
党秘書は、「党機関」から派遣されてきたエライさんとして企業所の特別室でふんぞりかえってみたいだけのために、この役職に就いているのではない。自分に利益があるからこそ、企業所の幹部たちの首を切ったりくっつけたりという面倒な仕事にエネルギーを使うのだ。
このように企業所の経営を妨害するのが、「党機関」の「経済指導」の本質だ。
石丸次郎:事例をあげて、もう少し具体的に話してほしい。
ケ:例えば、茂山(ムサン)鉱山連合企業所の場合、そこの党委員会責任秘書、企業所の支配人、技師長、副支配人は、中央党秘書局が彼らを任命・罷免することができる対象幹部だ。
ところが、何かの理由で企業所の党秘書と支配人の関係が悪くなると、党秘書は「一〇大原則」と党政策、および党規約に則って、支配人の違反行為やそれが行われている可能性があるらしいという情報を資料化し、中央党に報告する。
このような報告を受けると、中央党機関は、調査・検閲チームを企業所に派遣する。調査過程で、支配人に実際に問題があったり、支配人自身の過誤でなくても何らかの問題に支配人が関っていたりする場合、支配人はまず、党の罰を受け、「革命化」(注2)に送られる。
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