それから、中央党秘書局の人事措置に基づいて機械的に下りてくる内閣行政処分によって、支配人は職位を追われる。こうしてこの権力争いは党秘書の勝利に終わるわけだ。
これら企業所の党秘書が、企業経営とは無関係な問題によって、いやそれどころか、合理的な企業管理に逆行するようなやり口によって支配人を陥れることが可能だという点に、現在の「経済指導」の重大な問題があるのだ。
「一〇大原則」や、党の政策、党組織の規約が、企業経営とは無関係に、ただ権力争いのためだけに濫用されているという事実は、朝鮮の誰もが知っていながら口にすることのできない一大タブーになっている。
一方、支配人は支配人で、党秘書が工場の金品に勝手に手を出すことができない構造のおかげで、党秘書の非行や弱点をつかんでいたりする。従って、支配人の方も自分の力とコネを利用し、法的手段を通じて党秘書の首を狙っている。
このように企業所の実質的なトップである党秘書と支配人との間には、権力争いが起こるべくして起こるのだ。
支配人と秘書のどちらが政治的に強いかという問題だが、それは一言では説明できない。
両者がお互いの弱点を握っているため、たいていの場合なれ合いになる。結局、そこで発生する損失は企業所が負担させられることになる。
政治的には党秘書のほうが強い権限を持つが、金の面では支配人の権限のほうが強いので、党秘書が物質的な利得を得ようとすれば、支配人との関係をある程度良好に保つ必要がある。
このように、利潤を生み出す生産主体である企業所に二人のトップがいることが、政治・経済的な利権争いを生む構造となっており、そのあおりで企業所は公正な経済活動ができない状態に追いこまれている。
このように、企業が利潤を生み出すのに絶対的に不利な権力構造があり、企業の、社会の、いや、国家の発展の阻害要因となっているのだ。この病弊は一人や二人の人間による一日、二日の努力で治せるようなものではない。すべての人々が自分の関係分野について真剣に考え、議論を行い、党的、社会的合意ができるよう、考え方を変えなければならない。しかし現実は、議論も研究もできないのである。
(つづく)
注1 「大安の事業体系」一九六一年一二月、金日成の大安電機工場現地指導の際に確立された、党委員会の指導の下で企業を管理・運営する方式のことである。北朝鮮は、それまで他の社会主義国と同様、「支配人唯一管理制」を実施していたが、党の経済への「介入」が公式化された。
注2 朝鮮労働党が「組織規律違反者」に下す懲罰のひとつ。法的な手続きによらず、裁判もなく罰が科せられるが、その範囲は本人のみならず家族にまで及ぶ連座制である。その拘置施設が管理所、いわゆる政治犯収容所だ。ライバルを蹴落とす際に、規律違反を作り上げて革命化に送るということが横行している。
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