拡散する金正日重病説 北の民衆はこう受け取った 4 石丸次郎
体制引き締め
一方で、北朝鮮国内では、九月以降さまざまな分野で統制が厳しくなっている。
まず目についたのが、北朝鮮から中国への出国が大幅に制限されたことだった。
このところ、中国側国境都市の吉林省の図們、延吉、遼寧省の丹東には、北朝鮮からの親戚訪問者はほぼ皆無、ビジネスマンや官吏がちらほらいるだけという程度になった。
中国への出国制限は、八月の北京五輪開催前に中国当局の要請によって行われていたが(駆け込み亡命などのトラブルの事前回避が目的と思われる)、この措置は九月一七日にパラリンピックが終われば緩和されると見られていた。
しかし、二〇〇九年に入ってからも、北朝鮮から中国に出国してくる人の数は激減したままで、この数年で最も厳しい出国制限が今も続いている。金正日重病説が、中国を通じて入るのをシャットアウトしようという意図が、その理由の一つではないか考えられる。
また、シム・ウィチョンはじめ内部記者たちの報告によれば、市場や商売行為への取締りのみならず、社会全般の風紀取締りも一段と厳しくなっている。
女性が大通りでズボンを履いたり、自転車に乗ることまで厳しく制限されるようになった。赤腕章をつけた糾察隊(取締り部隊)の姿は、記者たちが撮影したビデオのここかしこに写っていた。
このような風紀取締りは、もちろん今に始まったことではなく、過去からずっと続いていることなのだが、金正日に「異変発生」後に、さらに厳しくなっているようだ。
金正日重病説が流れる中、体制引き締めの意図があるものと思われる。
一〇月中旬に中国で会った平安南道在住の内部記者のチャン・ジョンギルによると、
「学生糾察隊、女性同盟糾察隊、青年同盟糾察隊の連中が街の辻々に立ってうっとうしいことこの上ない。上からどんな命令があったのか知らないが、最近になって厳しくなったのは確かだから、金正日が倒れて容体が良くないということと関連していると思う」
という。
次のページへ ...