我が国の経済動向 19
「あいだの橋が悪い」
石丸次郎:「党機関」による企業所運営への干渉は、経営責任を曖昧にしてしまうのではないか?
ケ・ミョンビン:それでも朝鮮の伝統的な考え方では、「党機関」が企業指導を行う。
金正日が党のトップを明け渡すことがない大きな理由の一つがここにある。
金正日は現在、行政的に国防委員会を掌握し、第二経済委員会の生産を掌握していると同時に、内閣もその傘下に入れて、民需までも握っているスーパー大統領的な行政のトップである。
ところが、「一〇大原則」によって付与された金正日のこの権限には、非常に特殊な点がある。すなわち、金正日には、驚くべきことに行政権限はあるが責任はないのである。
その上、金正日と企業所のあいだをつなぐ橋の部分が、「党機関」や軍部機関などに分かれている。
こいつらは互いに明確な区分もなく、てんでばらばらに「将軍様命令」を携えて企業所にやってくる。ひどい場合は、末端の企業所には、将軍様からの相対立する複数の指示が同時に下されることもある。
どちらに従って、どのような生産をすればいいのか、判断がつかず大混乱に陥るしかない。このような現象を人々は「あいだの橋が悪い」と表現する。
民需部門でも「将軍様の命令」が最優先課題とされ、企業生産額の三〇%を必ず国家に上納しなければならない。
少しでも不足や遅れがあると、党中央軍事委員会や国防委員会が動く。両者は党中央委員会と対等な人事権を振りかざして、その企業所の党秘書局の幹部を失職、降職させてしまう。
企業所は、実際、「党機関」と軍部機関の二つが上位の指導部門として存在する構造になってしまっている。「党は即ち軍であり、軍は即ち党である」というスローガンがあるが、それは二つの機関に指導を受けることを意味するのだ。国家が持つ武力手段である軍を、党と同一視するこのような考え方は、ほかでもなく、軍部がシビリアン・コントロールを受けていないということ(注1)、つまり朝鮮の政治が非常に不安定な状態にあるという事実を如実に物語るものである。
内閣は本当にひどい位置にある。経済の非合理的な状況を打開するために、人事権を行政に戻そうとする動きがなかったわけではない。朴奉珠(パク・ポンジュ)内閣総理は行政幹部任命権を内閣に与えるよう上部に建議した。
しかし、「党機関」は譲歩しなかった。「党機関」の権力の柱が人事権にあるからだ。
末端権力である職場長はもちろんのこと、班長(注2)、電話交換手、独身職員合宿所の職員、果ては警備員の任命に至るまで、人事権は党秘書が全て握っている。そのため民衆は、自然と党秘書に頭を下げるようになり、いい職場に配置されるためには賄賂を差し出さざるを得なくなるのだ。
企業内で党機関にできることなど、実際には宣伝と教育指導ぐらいだ。情けないことに、人事や軍事といった執権政党の核心的権威も、実は「金品」を手に入れるために使われているのが現実だ。
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