政策意思決定構造の問題点
ケ:次に提議書、つまり方針についての意思決定構造を見てみよう。
朝鮮の政治は独裁性の強い唯一的指導体制で運営されているため、政策のほころびやでたらめな結果が頻発する。だが、上の者と下の者がお互いに責任をなすりつけ合ってばかりいるので、どこかで勢力のバランス調整が必要になり、かつ最高権力者の権威を毀損してはならないという要求にも応えなければならない。
このような現実的必要のために生じたのが、下部から上程される提議書を検討・批准して最終方針を下すという意思決定方式である。諸外国の立法方式であれば、行政府が提案し、国会が承認・可決するという手続きをとるが、これに当たるものであると言うべきか。
逆に言うと、我が国では内閣も最高人民会議もまともに役目を果たしてないのだ。最高人民会議も自分たちから方針を打ち出すことは決してなく、(金正日から)受け取った方針にただ判を押して決定を下達するだけである。
石丸:提議書の作成過程をもう少し具体的に話してほしい。
ケ:各機関は提議書を、まず直属の上部機関に上げる。たとえば軍隊の提議書は、総参謀本部を通じて金正日に上げられる。
その過程で、提議内容を検討する「了解工程」がある。その権限は、一般社会では「党機関」が、軍では軍政治局が握っている。経済部門から上げられる提議書は、経済の専門的な審査が必要であるにもかかわらず、内閣や何がしかの専門機関、あるいは担当の経済機構で扱うことはない。提議書を上げる「工程」にいる政治幹部たちがその提議書を金正日に提出するかしないかを審査する。
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