コクテルを味わう 2009年3月21日
2年前に訪れたバグダッドは人の姿もまばらだった。多くの市民が、国外や北部のクルド自治区へ逃げ出していたが、この1年で人びとは戻り始めている。
今回バグダッドで味わいたいと思っていたものがあった。それはコクテルだ。「お酒のカクテル」ではない。いわゆるフルーツパフェである。
コクテルには新鮮な果物をミキサーに入れて混ぜ合わせたもので、コップからこぼれそうな生ジュースなどを、スプーンでつつきながら飲む。アラブ諸国はもちろん、イラクのどの町でも飲めるが、バグダッドのコクテルが甘さ控えめで美味しいのだ。治安悪化が最悪だった、この3年間は、外出すら容易ではなく、従業員までもが誘拐されたりしたため、多くの店が営業をあきらめざるをえなかった。
閉鎖をよぎなくされてきた市内のコクテル屋が、いま、再開し始めたという。
訪れたのはマンスール地区。商店が立ち並ぶ通りでは、多くの家族連れがウィンドーショッピングを楽しんでいる。それでも何が起こるか分からないのがイラク。緊張しながら通りを歩く。
地区で一番人気のコクテル屋には、老若男女であふれ返っていた。店員さんに話を聞こうと声をかけたが、仕事にめいいっぱいで、眉毛をヘの字にして、対応できない顔をする。
コクテルは、ミキサーの中に、オレンジ、バナナ、キウイ、ニンジンなどをポンポンとほうり込み、氷とシロップを入れ、かき回す。それらをグラスに注いだ後、カットした果物やチョコソース、松の実をトッピングするのだ。普通のコクテルは甘ったるいのだが、マンスール地区のそれは、のど越しはさわやかで、スーッと体に染み渡った。空気が乾燥したイラクでは、この一杯で生き返る気がする。
一杯1500ディナール(約140円)と、お高いが(普通は一杯80円以下)、「やっぱりバグダッドのが一番ね。シリアに避難していたとき、ずっと夢みてたのよ」と隣にいたスカーフを頭に巻いたおばちゃんは満面の笑顔をみせた。店内にはひとときの平和が広がり、嬉しさで涙が出そうになる。
一杯のコクテルで、私もひさしぶりにホッとした瞬間を味わうことができた。
(つづく)