■疲弊する民、コチェビの増加
私はこれまで一〇年にわたって、北朝鮮内部で撮影された映像を見続けてきた。シム記者の撮った今回の映像を見て強く印象に残ったのは、コチェビ(ホームレス)が増えたなということだった。
九〇年代大飢饉の際には、社会が混乱する中で食糧を求めて彷徨う人々が群をなしていた。配給が途絶し、じっとしていては飢え死にしてしまうため、多くの人が現金を得るために家財道具を売り最後には家を売って、流民となっていった。
また、親が死んだり養育を放棄して捨てられた子供も、北朝鮮中の都市で浮浪児となって彷徨っていたのである。
その後、民衆は途絶した配給に代わる生きていく方法として、商売を活発に行い、市場経済をみるみる発達させたことは、これまで本誌でも何度も触れてきた。北朝鮮の国民は自力で飢餓から脱したのである。
こうしてコチェビの数は減っていったのであるが、シム記者が撮影した二〇〇八年の映像を見ると、コチェビに転落した人をはじめ困窮した人が増えているのがはっきりとわかった。
シム記者のカメラは幼いコチェビたちが徘徊している姿など、疲弊した人々に向けられた。
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次の会話は、〇八年一〇月中旬、海州市に赴いたシム・ウィチョン記者が、日が暮れた後に屋外で寝ている三人組の子供たちに話を聞いたときのものである。
シム:君はいくつ?
子供1:一〇歳。
シム:一〇歳? そこの帽子を被ってる君は?
子供2:一二歳です。
シム:君は?
子供3:一一歳。
シム:寒いのに、ここで何してるの? こっち向いてみな。そこの帽子を被った大きい子。夕飯は食べたのかい?
子供2:食べてません。
シム:食べられなかったって?そっちの君もこっち向いて。なんだ、髪もボサボサだな。ちゃんと散髪行かないと。
子供3:お金がなくて。
シム:金がないのか?
子供3:はい。
シム:毎日、朝ごはんはどこで食べてるんだね?
子供1:食べられません。
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