「このアマ、なんてことするんだ!」
誰かがそう叫んで、その若い女性乗務員へと飛びかかった。死んだ女性よりも一足先に列車に乗りこんだ将校だった。
二人の人間の命が車輪に巻き込まれて消えてしまう瞬間を、将校は両目ではっきりと見ていたのだった。
「生きてる人間を蹴落して死なせるなんて!」
すっかり頭に血が上り正気を失った将校は、怯えて顔面蒼白になり壁に張り付いている若い女性乗務員に飛びかかると、両手で力いっぱい首を絞めた。
「苦しい……」
女性乗務員の悲鳴で、別の女性乗務員が乗務保安員(列車に乗車した民間人を取り締まる警察官)を連れてやってきた。
拳銃を片手にやってきた乗務保安員は、既に絶命した女性乗務員の首を執拗に絞め続けている将校を、その場で撃ち殺した。
その銃声を聞いて、今度は警務官(軍内の警察機関の将校、軍人を取り締まる)が駆けつけた。
通路に倒れている将校と拳銃を手にした乗務保安員の姿が目に入るやいなや、「貴様! 将校を撃つとはどういうことだ!」と叫びながら拳銃を抜き、目の前の乗務保安員を射殺した。
僅か数分間に五人が命を失う事件が、走行中の列車内で起きたのだった。
この殺人事件は、何よりも人民軍と保安省との間に軋轢と深い溝があることを如実に現している。
また、このように無理してでも乗り込まないと、次の列車が何時出発するかわからないほど、朝鮮の鉄道インフラが麻痺し立ち遅れたままだということも、同時に物語っているのだ。
資料提供 シム・ウィチョン
二〇〇八年九月
(整理 チェ・ジニ)
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