【通訳の家の昼ごはんの様子。テレビはいつもつけたままだが、停電のたびに発電機を回しにいかなければならない。イラクのほとんどの家庭には衛星アンテナがあり、200以上のアラブ諸国やヨーロッパのチャンネルも楽しむことができる】(撮影:玉本英子)
居間のテレビで衛星放送を見る。イラク人に大人気なのがMBC(中東放送センター)4チャンネル。この局はいったいどれだけ放映権料を払っているのかと思うほど、ハリウッドの最新映画を24時間流している。視聴は無料で、吹き替えではなく、英語原音にアラビア語の字幕がつく。
今日は、ちょうど「リング2」のアメリカ版が放送されていた。アクション映画が多いなか、ひさしぶりの本格ホラー映画に、家族にまじって、私もテレビの前に座り込み、夢中で見てしまった。
最後のシーン、いわゆる「サダコ」が井戸の中から主役の女性を追い詰めるシーンは壮絶だった。日本にいる時は怖いとは思わなかったのに。顔が引きつり、息を飲んだ。その瞬間、プッツ……。
突然闇に包まれた。停電だ。
「アァ~」という叫び声が近所からも聞こえてくる。母親が手元の懐中電灯をつけ、通訳はそそくさと庭に出て発電機を回した。ブロローー、と轟音をたてる発電機とともに部屋に灯りが戻る。だが映画はすでにエンディング……。
みんな悔しそうな顔をしている。
「パン、パン、パン」、外では乾いた銃声が何度か響いていた。
治安も電気も、まだまだだ。
戦争から6年。復興の道のりはまだ長く、そして、その先にあるものも、まだ見えない。
(つづく)
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